こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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約8300年前、岩陰や洞窟で暮らしていた縄文人。 その生活実態に迫る

国内最古級の埋葬人骨を発掘!

国学院大学文学部教授

谷口 康浩 氏

たにぐち やすひろ

谷口 康浩

1960年生まれ。83年国学院大学文学部史学科卒業。85年同大学大学院文学研究科(日本史学専攻)博士課程前期修了。87年博士課程後期中退。2007年国学院大学文学部教授文学部准教授。12年より現職。『環状集落と縄文社会構造』(學生社)、『縄文時代の考古学』全12巻(共編著、同成社)、『縄文時代の社会複雑化と儀礼祭祀』(同成社)などの著書がある。

2017年5月号掲載


谷口 この遺跡より後の縄文時代には、ムラの中央に集団墓地を設けてその周囲を住居で囲む「環状集落」という形式の集落が出現しています。生活空間に遺体を埋めることで、亡くなった人とのつながりを大事にしていたと考えられ、それを裏付ける証拠もたくさん見つかっています。こうした習俗は、弥生時代以降には見られなくなり、次第に死を忌むべきものとして考えるようになって、生活空間から墓地を遠ざけていったのです。
 これまではこの環状集落以前の縄文人の死生観ははっきりしていなかったのですが、今回、この人骨が見つかったことで、少なくとも8300年前には、環状集落と同様、死者を身近に感じ大切に扱う死生観を持っていたと考えられるようになりました。

──なるほど。国内最古級の埋葬人骨のおかげで、初期縄文文化研究の新たな扉が開かれたわけですね。

谷口 はい。また、それだけではなく、発掘した人骨を詳しく分析することで、当時の縄文人の実像や生活実態に迫ることもできます。今、東京大学の近藤修准教授(形態人類学)に依頼し、人骨・歯の形態から体型、顔立ち、年齢などを復元しているところです。さらに骨の傷や病気の痕から、生前の健康栄養状態、病歴、労働環境などが分かる可能性もあります。

──労働環境までとは、骨ひとつからずいぶんといろいろなことが分かるものですね。

谷口 はい。もっと言えば、人骨だけでなく、遺跡から出土した土器片や石器、ニホンジカやイノシシの骨、植物の種なども初期縄文人の生活実態を知る重要な手掛かりとなり得ます。

埋葬人骨を発掘している様子。3次元計測を行い、出土状態を詳細に記録しながら骨を掘り出していく。非常に時間と手間がかかる作業だという〈写真提供:谷口康浩氏〉

──生活実態というと…?

谷口 例えば、土器片からは食生活の内容が復元できます。縄文人は土器を煮炊きに用いていたため、内側にお焦げや脂質など、その形跡が残っているのです。

──それらを分析すれば、縄文人がどんな動物や植物を食べていたかを知ることができるというわけですね。


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