こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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環境考古学者にとって、 ゴミ捨て場やトイレは“宝の山”です。

ゴミ捨て場が宝の山。自然遺物から昔の生活を探る

(独)国立文化財機構 奈良文化財研究所 埋蔵文化財センター 環境考古学研究室 室長

松井 章 氏

まつい あきら

松井 章

1952年、大阪府生れ。専攻は環境考古学、動物考古学。71年、東北大学文学部入学後、78年〜79年まで米・ネブラスカ大学人類学科に留学。82年、東北大学大学院博士課程後期を中退し、現在の(独)国立文化財機構 奈良文化財研究所に就職。現在、同研究所 埋蔵文化財センター 環境考古学研究室 室長、京都大学大学院 人間・環境学研究科 文化遺産学分野 准教授を併任。著書に「環境考古学マニュアル」(編著、同成社)、「考古学と動物学」(共編、同成社)、「考古科学的研究法から見た木の文化・骨の文化」(編著、クバプロ)、「古代湖の考古学」(共編、クバプロ)など。

2008年1月号掲載



松井 母校である東北大学のある仙台の近くには、たくさんの貝塚がありました。貝塚は縄文人の「台所のゴミ」の堆積物です。いろんな時代の台所のゴミを調べていけば、歴史が語れるのではないか、と思ったのがきっかけです。
古墳などから出てくる装飾品には、全く興味がありませんでした(笑)。

 

縄文時代のゴミ捨て場から農耕の痕跡も


──縄文人は狩りや漁労、野性植物の採取を生業にしていたといわれていますが、先生は農耕もある程度なされていたと主張されていますね。


松井 エゴマ、シソなどの有用植物の種子や、ヤマノイモの仲間の葉の下にできる「ムカゴ」が遺跡から発見されていることから、そうではないかと推測しています。


植物を食べ、定住生活を続けていれば、ゴミ捨て場やトイレから種子が発芽する。それがだんだんと生い茂り、間から生えてくる雑草を人間が引き抜く。有用植物が生育しやすい環境を、人間が自然とつくっているわけです。
野生から栽培へと徐々に移行していく時期が、すでに縄文時代にあったのではないかと。

 

オレゴン州ポートランド市近くの、コロンビア川中州にあるサンケン・ビレッジ遺跡。水漬けの遺跡であるため、普通の遺跡では残らない植物性の遺物が多く残っており、ドングリなどが発掘された〈写真提供:松井 章氏〉
オレゴン州ポートランド市近くの、コロンビア川中州にあるサンケン・ビレッジ遺跡。水漬けの遺跡であるため、普通の遺跡では残らない植物性の遺物が多く残っており、ドングリなどが発掘された〈写真提供:松井 章氏〉


──人間と植物のバランスがだんだんととれてきて、生活環境が少しずつ変化していくわけですね。
ところで、先生は縄文時代の戦いの跡も発見されたとか。


松井 はい。高知県にある居徳遺跡で、成人女性と思われる人間の太ももの骨が見付かったのですが、この骨には矢が突き刺さったと思われる貫通痕が残っていました。


──それは…。海から異民族か何かが侵入してきて、村を襲撃したのでしょうか。成人女性を狙ったとなると、虐殺も考えられますね。

 


近著紹介
近況報告

※松井 章先生は、2015年6月10日にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)

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