こだわりアカデミー
人間よりはるか以前から、農業、牧畜、奴隷制度etc…
人間以上にスゴイ! 昆虫の生態
九州大学総合研究博物館助教
丸山 宗利 氏
まるやま むねとし

1974年生まれ 東京都出身。2003年、北海道大学大学院農学研究科博士課程を修了。その後、国立科学博物館、フィールド自然史博物館(アメリカ・シカゴ)研究員を経て、08年より現職。日本一と言われる約400万もの昆虫の標本を管理する傍ら、自ら世界各地を飛び回り、珍しい昆虫を収集。専門分野はアリと共生する昆虫のほか、体長数ミリ、頭に大きな突起がついた昆虫ツノゼミの研究にも力を入れている。著書に『ツノゼミ ありえない虫』(幻冬舎)、『昆虫はすごい』(光文社)、『アリのくらしに大接近』(あかね書房)、『きらめく甲虫』(幻冬舎)など。
2015年8月号掲載
超高速進化で、いまや500万種?!
──先生の著書『昆虫はすごい』を非常に楽しく読ませていただきました。昆虫の面白い生態が多数紹介されていましたが、世の中には本当に多種多様な昆虫がいるのですね。しかもその「種」の多さといったら、われわれ脊椎動物の比じゃないとか…。
丸山 はい、そうなんです。昆虫はわれわれが見ることのできる世界だけでもかなりの種がいますが、地面の下など見えないところにもたくさん存在しています。脊椎動物どころか植物や菌類も含めた、陸上で暮らす生物だけで考えた場合でも、その70〜80%超を昆虫が占めているんです。既知の種だけでも世界で100万種。熱帯雨林など未調査の地域も多々ありますし、博物館の標本の中ですら名前が付いていないものもまだまだいる。実際には最低でも300万〜500万種はいるのではないかといわれています。
──500万種! なぜそんなに種類が多いのですか?
丸山 進化のスピードが速い、また進化しやすいからだといえるでしょう。その大きな要因は、まず「小さいこと」。そして、「飛ぶことができる」ことが考えられます。
体が小さいことで、例えば大きな脊椎動物が暮らせないような小さな穴とか落ち葉の下とか、さまざまな環境に生息することができる。そして、それぞれの環境でそこに適応した種ができていくのです。
──なるほど。その上、飛ぶことができると、いろいろな場所へ行くこともできますね。
丸山 そのとおりです。また、小さいと成長が早いので、世代交代のサイクルが短くなります。人間の場合は少なくとも20年程度はかかりますが、昆虫は通常は1年。熱帯なら数カ月、中には数週間というものもいます。この世代交代の早さにより、進化する種が必然的に増えるというわけです。
──種が多いと、中には面白い特徴を持つ昆虫もたくさん出てくるということですね。面白い特徴といえば、ご著書でも紹介されていた植物や他の昆虫を真似るような「擬態」も興味深い生態ですが、それも進化の一つなんですか?
丸山 はい。ご存知のように進化とは、突然変異がもとで環境に適応することにより、新しい種が生まれることです。擬態も無数の突然変異の結果、生き残った生態です。葉っぱそのものに見せかけるコノハムシの擬態では、かじった痕まであったりします。おそらくそういう風に見せかけることで天敵に襲われずに済んだコノハムシたちだけが生き残ってきた、ということなんでしょうね。 
──かじった痕までとは(笑) 偶然とはいえ、進化とはすごいものですね。
アフリカのジャングルで、奇妙な形のツノゼミを追う
──昆虫が組織的に狩りをしたり奴隷を使ったりなど、まるで人間と同じような行動をとったりすることにも驚きました。
丸山 はい。人間が家畜を飼うように他の昆虫を飼うとか、農業をするようにキノコを育てるとか、人間もビックリの行動が数々あります。たまたま人間と同じような行動に見えますが、歴史を考えるとむしろ昆虫の方が先にやってきたことだと考えられます。
──人間はたかだか100万年、昆虫は4億年と考えると、ある意味では大先輩。われわれが昆虫に学べることもあるかもしれませんね(笑)
先生はそうした昆虫の面白い生態を実際に観察されていると思いますが、具体的にはどのような場所で?
丸山 国内に限らず海外へも年に5〜6回調査に行きます。この5月にもアフリカのカメルーンのジャングルへ採集に行き、ツノゼミというとても奇妙な形をした昆虫を採集してきました。ツノゼミは平均5�个�らいの小さな昆虫で、植物の茎などにいて、その汁を吸って生きているのですが、排泄物として甘い蜜を出すのです。そこには、その蜜をエサとするアリがそばにいて、エサをもらう代わりにツノゼミを天敵から守っている。これはアリがツノゼミを家畜のように飼っているかのように見えます。実際、その守りは強固で、私もツノゼミ採集のときにアリに何ヵ所も刺されたくらいです。
──大変でしたね。それにしてもいろいろな昆虫を探したり観察したり、また、採集したりするのは大変ですよね。採るのは昔ながらの捕虫網なども使ったりするんですか?


カメルーンで撮影したツノゼミ数種。小さな昆虫の撮影では全体にピントを合わすのが難しいため、多数の写真を撮影し、ピントの合った部分を合成する〈写真提供:丸山宗利氏〉
丸山 もちろんそれも使いますが、ジャングルや森林のようにたくさんの昆虫がいる場所では罠も仕掛けます。私が考案した仕掛けもいろいろあります。例えば、透明なプラスチックのコップを地面に埋めて落とし穴をつくったり、透明なクリアファイルでつくった衝突板トラップ(図参照)などなど…。衝突板は、地面すれすれに置いておくと飛んでいる虫がぶつかって落ちる、という単純な仕掛けです。普通にジャングルを歩くと何も飛んでいないように見えますけど、一晩仕掛けておくと、それはおびただしい数の虫が落ちていますよ。
──それはおもしろいですね。簡単な仕掛けでそんなに採れるなんて、すごいアイディアです。
![]() |
日本人は世界の中でも大の昆虫好き
──先生のお話を聞いていると、子供の頃に山で虫採りに熱中していた頃を思い出します。
そういえば、日本人はすごく昆虫が好きな国民だと聞いたことがあります。

カメルーンで採集している様子。サスライアリの行列から吸虫管を使って、巣に同居するハネカクシを吸い取っている〈写真提供:丸山宗利氏、撮影:柿添翔太郎氏〉
丸山 そうですね。欧米などでは、ひとまとめに「虫」と呼ばれることが多いのですが、日本だと、ちゃんとカブトムシとかコガネムシとか名前で呼ばれていて、それだけでも興味が深いことが分かります。
──トンボにしても、シオカラだとかギンヤンマとかいろいろな名前が付いていますよね。
丸山 高温多湿で里山も多く、身近にたくさんの昆虫が存在しているという背景もあるのでしょう。最近では昆虫を怖がる子供も増えてきたとはいえ、まだまだ昆虫好きの子供も多いはずです。
──そろそろ夏休みですから、子供が昆虫探しをするのにもいい時期です。昆虫を探すコツなどはあるものですか?
丸山 まず昆虫のいそうな場所を考えることです。
──昆虫のいそうな場所というと?

プラチナコガネ(左上)やタマムシ(左から2番目)など、甲虫にはきれいな色をした種も多い〈写真提供:丸山宗利氏、著書『きらめく甲虫』(幻冬舎)より〉
丸山 例えばクモは昆虫の通り道をよく知っていますから、クモの巣が多いところなんかは狙い目です。手っ取り早いのは、光に寄って来る昆虫を探すことでしょうね。例えばキャンプ場に行った際などに、夜に自動販売機を見回ると意外とコガネムシやガなど、多くの虫が集っていたり…。黒くなったバナナを出汁パックなどに入れて木にぶら下げておくと、いろいろ集ってきますよ。
それに、昆虫を探す場合は、「これを探そう」と絞るのが大事ですね。不思議なことに、探すものを絞って目を凝らすと、遠目でも目的のものが見えてくるものなんです。でも、いるかと思っていた予想が外れることもある。そこがまた面白い。
──昆虫をひとくくりに害虫のように嫌う人もいますが、よく見ると、羽などが美しい色や模様になっているものもあります。昆虫観察って面白いですよね。
丸山 その「よく見ること」が大事ですね。やっぱり昆虫探しの原点は、目で探して観察することですから。じっくり観察すればいろいろな気付きがあるはずです。
──夏休みはいい機会ですから、子供たちには、ぜひたくさんの昆虫を見てもらいたいですね。
本日はどうもありがとうございました。
![]() |
| 『昆虫はすごい』(光文社) |
![]() |
| 『きらめく甲虫』(写真集・幻冬舎) |
![]() |
| 『アリの巣のお客さん』(子供向け写真絵本・あかね書房) |
サイト内検索








