こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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自然と共存する第一歩は まず自分の家の庭を見直すことから。

動物と比べるとヒトがわかる

女子栄養大学人間・動物学研究室教授

小原 秀雄 氏

おばら ひでお

小原 秀雄

1927年東京生れ。国立科学博物館動物学部員を経て、現在、女子栄 養大学人間・動物学研究室教授。専攻は哺乳類学であるが、人間と動物との「共感」 関係など幅広い視点で研究を行っている。世界自然保護基金日本委員会理事、日本自 然保護協会理事長、国際自然保護連合保護委員会副委員長、トラフィック・ジャパン 委員長、日本環境会議代表理事、国際哺乳類学会委員(東アジア代表)などを兼任。 著書に、『日本野生動物記』『生物が1日1種消えていく』『動物たちの社会をよむ 』他多数

1992年10月号掲載


敵意がなければ動物も攻撃してこない

──人間のさまざまな行動の原点を考えると、愛情だとか、好き嫌いの感情って何なのかとても興味があるんですが、動物もそういう感情を持っているようですね。先生の著書で、ゾウの群れの中に子供のスイギュウが入り込んできて、やっつけられちゃうかと思ったら、大人のゾウが退いちゃった、というのを読んで、驚いたんですが…。

小原 ええ。まさに私の目の前で起ったことで驚いたんですが、スイギュウの子供がぶつかってきたら、ゾウが後ろへ引いちゃうんです。普通だったら考えられません。ゾウというのは本当に強い動物で、自動車だろうが四頭立ての牛車だろうが、鼻でボーンとぶん投げちゃうほどです。大人のスイギュウだって近寄りません。ところが、子供のスイギュウは怖さを知らないからゾウにぶつかろうとする。するとゾウの方が逃げるんです。やっつけようという気がないんです。退いてあげようとする。

──心情的にはなんとなくわかりますね。愛情でしょうか。

小原 本当は何なのか、種類も違いますしわからないんですが、見ていると何となく気分はわかる。

たとえ大きくて強いゾウであっても、このスイギュウのように自分にとって害のない存在であれば、むやみに踏みつけたり投げ飛ばしたりはしないんです。うちの卒業生の女性なども、今ミシガン大学の大学院でゾウの糞を分析して生活形態を調べるという研究をしているんですが、小さなジープに乗って、ゾウの群れの中へ入っていくんですよ。

──平気なんですか。

小原 怖い思いはずいぶんしたようですが、要は、ゾウに信用されれば大丈夫なんです。

そのやり方は、ジョージ・シャラーというゴリラの研究をやった人が考えたんですが、ゴリラに近づく時、それまでの研究者はみんな鉄砲を持って近づいていったのに、彼は絶対に持たないという信念で近づいていったんです。そうするとおもしろいことに、動物にはわかるんです。

──相手が無害だということが−

小原 そうです。考えてみれば、ゴリラはゾウやスイギュウがそばを通ったからって、いちいち追っぱらったり攻撃を仕掛けたりするわけじゃありません。普段はお互い知らん顔をしているわけでしょう。そうでなければ動物の世界は成立しないんです。だからんげんもその一員になってしまえばどうってことない。こちに敵意がなければ、向こうも攻撃する対象として見ないんです。

ジョージ・シャラーはその信念を貫き、その後トラ、ライオン、そしてジャガーに対してもやって成功していますが、彼は、強い動物は本能的な抑制力が働いているということを見抜いたんですね。

──動物には攻撃だけでなく抑制の本能もあるんですね。

小原 たとえ仲間同士だって、ライオンなどは一噛みしたら首の骨が折れちゃうわけですから、使うときやその加減を知っている。その辺は、動物相互である種のコミュニケーションができあがっているんです。


近況報告

1998年3月に対談当時務めておられた女子栄養大学を定年退職。現在は同大学の名誉教授に。 また、野生生物保全物研究会会長、人間学研究所名誉所長、野生動物保護学会、ヒトと動物の関係学会、日本自然保護協会、国際自然保護連合保護委員会の顧問も務めるほか、自然の権利基金代表理事、アフリカゾウ国際保護基金理事(日本代表、募金団体)なども務めている。また数多くの受賞もされており、世界保護基金保護功労賞、国連環境計画(UNEP)のグローバル500賞などがある。 著書に『おもしろ自然・動物保護講座』『きみの体が地球環境』(全5巻)、『万物の死』。共著に『多様性と関係性の生態学』『ペット化する現代人』がある。

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