こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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ネズミもゾウも、心臓は15億回打って止る。 生物学的にみると、人間の寿命は26.3年です。

ゾウの時間・ネズミの時間

東京工業大学理学部生物学教室教授

本川 達雄 氏

もとかわ たつお

本川 達雄

1948年宮城県仙台市生れ。71年、東京大学理学部生物学科(動物学)卒業。東京大学助手、琉球大学講師・助教授、デューク大学(アメリカ)客員助教授(86−88年)を経て、91年より東京工業大学理学部生物学教室教授、理学博士。専攻は生物学、動物生理学。主な著書に「サンゴ礁の生物たち」(85年、中公新書)、「細胞のバイオメカニクス(共著、90年、オーム社)、「Biology of Echinodermata」(共編著、91年、Balkema)、「ゾウの時間 ネズミの時間」(92年、同、講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、「歌う生物学」(93年、講談社)、「絵とき ゾウの時間とネズミの時間」(93年、福音館書店)、訳著に「サンゴ礁の自然誌」(86年、平河出版社)、「生物の形とバイオメカニクス」(89年、東海大学出版会)等がある。
今年4月−6月、NHK教育テレビ「人間大学−生物のデザイン」に出演。“歌う生物学”と銘打って、毎回番組中で自作自演の歌を披露し話題に。今春、CD(「ゾウの時間 ネズミの時間」日本コロムビア)デビューも果した。

1995年8月号掲載


私たちが考えている「時間」だけが「時間」ではない

──そうした時間の違いは、ゾウやネズミ自身にとってはどうなんでしょう。

本川 時間が体重の4分の1乗に比例するということは、体重が2倍になると時間が1.2倍長くゆっくりになる関係です。体重が10倍になると時間は1.8倍になるんです。例えば、30gのハツカネズミと3tのゾウでは体重が10万倍違いますから、時間は18倍違い、ゾウはネズミに比べ時間が18倍ゆっくりだということになります。

──時間が18倍違うというのは、相当なことですね。

本川 そうです。映像を18倍ゆっくりスローモーションで再生しますと、画像はほとんど動かないと言っていいくらいです。逆に18倍の速度で早送りしますと、目にも止まらない動きですよね。

ですから、ネズミからゾウを見たら、ただ突っ立っているだけで動かない、これは果して生き物だろうか、って具合でしょう(笑)。逆にゾウからネズミを見たら、ピュッっといなくなるわけですから、ネズミなんて果してこの世にいるのか、気にもしていないのかもしれませんね。

──確かに彼らは同じ地球上に生きているけれども、同じ世界を共有しているかどうかは疑問ですね。

本川 それに、これだけ時間の速さが違えば、時間の持つ意味や、その時間を使っての生き方が動物によって大きく違っても不思議はないですね。

例えば、リンゴの木の枝から、リンゴ、鉄の塊、ネズミ、ゾウを同時に落とすとします。同じ高さから落とせばどれも同時に地面に着きますから、そういう意味ではすべてに同じ物理的時間が流れているのです。でも、ネズミは落ちている間に「あっ、落ちる落ちる落ちる落ちる・・・どうしよう!」なんて言いながら、いろんなことを考えているかもしれません。一方、ゾウは「あれぇ?」なんて思っている間にドスーンと落ちてそれでおしまいってことになるのかもしれない。いずれにしてもその間、ネズミにはネズミの、ゾウにはゾウの時間が流れていると言っていいでしょう。

現代のわれわれ人間社会では、時間というものを1秒とか1分、1時間、1日、1週間、1か月、1年・・・といったように、物理的、絶対的な単位を基準に考えますが、このように、自然界における時間、生物学的に見る時間というのも別な概念で存在するということです。

──われわれは物理的な時間だけが絶対だというように思い込んでいるところがありますが、それはいわば、人間だけの決めごとであって、他の動物にはそれぞれ独自の「時計」があるというわけですね。


近況報告

その後、東京工業大学生命理工学部基礎生物教授に就任。

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