こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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大人になると短く感じられる「時間」、 これは「錯覚」の一つといえます。

大人の時間はなぜ短い?

千葉大学文学部行動科学科准教授

一川 誠 氏

いちかわ まこと

一川 誠

1965年宮崎県生れ。大阪市立大学文学研究科実験心理学博士課程修了後、カナダYork大学研究員、山口大学工学部感性デザイン工学科講師・助教授を経て06年より現職。2000年、「時間学」に興味を持ち「時間学研究所」に携わる。同研究所最大のイベント「時間旅行展」のクルーとして活動。専門は実験心理学。実験的手法により人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性における規則性の研究に注力。現在は特に、視覚や聴覚に対して与えられた時空間情報の知覚認知処理の特性の検討を行なっている。著書に『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)、『時計の時間、心の時間−退屈な時間はナゼ長くなるのか?』(教育評論社)『時間学概論』(恒星社厚生閣、共著)など多数。

2010年4月号掲載


 

一川 今から150年程前の江戸時代には、まだ標準時というものがなかったため、人々は太陽の周期に合せて活動していました。人間が主体となって、自分達の生活に合せて時間を過ごしていたといえるでしょう。それが今では誰もが腕時計や携帯電話の時計機能を使い、それに合せて行動している。しかも分刻みの行動です。何だか、とても窮屈な生活を送っているような気がするのです。

──「時間ありき」で世の中が動いていると?

図3 オオウチ錯視
しばらく凝視していると、本来は動いていないにも関わらず、やがて中央の小さな円形の部分がより大きな円からなる背景の上でゆらゆら動いているように見えたり、小さな円と大きな円とがそれぞれ異なる動きをしているように見えたりする
しばらく凝視していると、本来は動いていないにも関わらず、やがて中央の小さな円形の部分がより大きな円からなる背景の上でゆらゆら動いているように見えたり、小さな円と大きな円とがそれぞれ異なる動きをしているように見えたりする

一川 はい。私は、時間に縛られるのではなく、社会生活におけるルールとしての時間を理解した上で、時間を「道具」として上手く使いこなし、無理をしないで身体の特性に従うのが生物としての人間に合っていると考えています。

そもそも、人間は進化の過程で「起床」「活動」「睡眠」のリズムを調整しながら生きてきました。その心的時計にズレが生じると、「朝になっても起きられない」「昼間に急に眠くなる」といった問題が起きやすくなり、代謝異常やメタボリックシンドローム、鬱などの症状も引き起こしてしまうのです。

──仮に、欲求のまま起き続けていられたとしても、それによって人間の心身は支障をきたし、健康を維持することが困難になることもあり得るということですね。

では、「道具」として時間を上手く使いこなすコツとは何でしょう?

一川 そうですね、例えば先程もお話ししたように、楽しいイベントを増やせば、充実した時間を過ごすことができるのではないでしょうか。あるいは、なるべく体験したことのないことを「刺激」として日常生活に取り入れていくことも、豊かな時間を過ごすためのコツだと思います。

図4 斜め線分からの運動錯視
中央の十字を注視しながら絵に近付いたり遠ざかったりすると、同心円状に配列されたエレメントが回転して見える〈画像提供:すべて一川 誠氏〉
中央の十字を注視しながら絵に近付いたり遠ざかったりすると、同心円状に配列されたエレメントが回転して見える〈画像提供:すべて一川 誠氏〉

心的時計の感じ方は、各々の体調や気分によって変るもので、一定ではありません。今、自分がどういう心理状態であるのかを理解して、社会的な時間との折合いを付けていくことが大切だと考えています。

──「時間」とは、目には見えない、触れることもできないものですが、確かに存在し、流れています。それに振り回されることなく、「道具」として考え、自分なりに上手く使いこなしていくことが、豊かな時間を過ごすことにつながるんですね。

本日はありがとうございました。


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