こだわりアカデミー
大人になると短く感じられる「時間」、 これは「錯覚」の一つといえます。
大人の時間はなぜ短い?
千葉大学文学部行動科学科准教授
一川 誠 氏
いちかわ まこと
1965年宮崎県生れ。大阪市立大学文学研究科実験心理学博士課程修了後、カナダYork大学研究員、山口大学工学部感性デザイン工学科講師・助教授を経て06年より現職。2000年、「時間学」に興味を持ち「時間学研究所」に携わる。同研究所最大のイベント「時間旅行展」のクルーとして活動。専門は実験心理学。実験的手法により人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性における規則性の研究に注力。現在は特に、視覚や聴覚に対して与えられた時空間情報の知覚認知処理の特性の検討を行なっている。著書に『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)、『時計の時間、心の時間−退屈な時間はナゼ長くなるのか?』(教育評論社)『時間学概論』(恒星社厚生閣、共著)など多数。
2010年4月号掲載
一川 そうです。「月の錯視」は、およそ2000年以上も昔から知られている現象なのですが、有力な説はあるものの、未だに成立の仕組みは解明されていません。また、1908年に発見された有名な「フレーザーの錯視」(図1)もその一つで、私など授業で使って何百、何千回も見ているはずなのに、見え方はいつも変らない。その図が、いくら同心円的な配置から成り立っている、と分っていても、渦巻き状に見えてしまうのです。
図1 フレーザーの錯視 |
一目見た瞬間、まずは黒い斑点状のエレメントが、らせん状に配置されているように見えてしまう。ところが、エレメントはらせん的には配置されておらず、本当は同心円状に配置されている |
──そうですね。私も何度見ても騙されてしまいます(笑)。
一川 面白いのは、「錯覚」は人間であればある程度共通して体験できる現象だということです。そしてその「錯覚」は、私達の生活の身近なところで役立ってもいるのです。
例えば、視覚の錯覚を利用して、視聴者に立体的な映像を提示する「立体テレビ」。同様に、聴覚の錯覚を利用して、2本のスピーカーだけでも多チャンネルのサラウンドのような音響を再現した「ステレオ放送」などがそうです。
──なるほど。「錯覚」と聞くと、何だかいい加減なイメージを思い浮かべていましたが、新しい技術の開発などにもつながっているのですね。
大人の時間は短い?! その原因を探る
──では、「時間」と「錯覚」とは、何か関連があるのでしょうか。私自身の経験なのですが、昔は15分でできていたことが最近では30分程掛かるようになり、あっという間に時間が過ぎた気になります。これもある意味では「錯覚」だと?
図2 フレーザー・ウィルコックス錯視 |
この図のタイトルを読みながら観察すると、図中には存在しない運動が見える |
一川 そうですね。時計の時間と人間の感じる時間とにはズレがあるので、これは時間の「錯覚」といえるでしょう。心の中にある「心的時計」が、さまざまな要因によって進み方を変えるために、大人の時間は短く、子供の時間は長く感じられるということなんです。
──といいますと?
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