こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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自然とともに暮らしている東南アジアでは 資源・自然を「絶やさない」という発想が当り前なんです。

エビと自然破壊−収奪から共生へ

東南アジア社会研究者 上智大学外国学部教授

村井 吉敬 氏

むらい よしのり

村井 吉敬

1943年千葉県生れ。66年早稲田大学政経学部卒業後、75−77年インドネシア国立パジャジャラン大学へ留学。帰国後上智大学国際関係研究所助手などを経て、83年同大学外国語学部助教授、88年教授に。現在、教鞭を執る傍ら、アジア太平洋資料センター共同代表、同センター発行の月刊誌「オルタ」の執筆も行う。著書に『スンダ生活誌』(78年、NHKブックス)、『小さな民からの発想』(82年、時事通信社)、『エビと日本人』(88年、岩波新書)、『サシとアジアと海世界』(98年、コモンズ)などがある。

1998年8月号掲載


島社会にある伝統的な資源保護制度

—— ところで、日本では昔、「留山」とか「御領地」などと言って、ある決められた山林は伐採してはいけないという制度がありました。これは、木材確保の意味もあったでしょうが、水資源の確保という狙いもあったようです。東南アジアなどでも、それと同じようなことが行われているようですが。

村井 今でもあります。エビを追いかけながら東南アジア諸国を歩いているうちに、島社会にはエビ漁や養殖と考え方が全く違う伝統的な資源保護の制度が存在し、それを守っているところがあると分かったんです。

どういうものかと言いますと、例えばアラフラ海のアル諸島では、ナマコの資源保護をやっています。ナマコは動かない生き物ですから獲り易いんですが、いっぺんに獲ってしまうと全部いなくなってしまう。ナマコを獲り尽くさないために、自分たちの村の沖合を半分に分けて、今年はこちら側を獲る、来年は反対側を獲るという制度をずっと長い間実行しています。

—— このような制度は、昔から島に住む人たちが生きる知恵として持っていたわけですね。

村井 もともと自然とともに暮らしている東南アジア諸国では「根こそぎ」という考えはなく、むしろ「絶やさない」という発想が当り前なんです。エビ漁や養殖でこの掟を無視し暴走している人たちがいる現実から見ると、その制度や考え方は非常に新鮮に感じました。

ほかにも3か月禁漁期間を設けるとか、ヤシの実をある期間採ってはいけないなど、島々にはいろいろな掟があるんです。その中で特に興味を引いたのは、「魚を育てるために植林をしよう」という制度です。これは「魚を育てるためには、きれいな水を管理してくれる森が必要だ」ということを意味しています。森が荒れていると洪水が起きやすいし、水も汚れる。魚なんかひとたまりもありません。

—— 島社会は広大な土地もなく、農作物もそんなに作れません。森、川、海の天然資源に頼るしかないわけです。そのうち一つでも壊してしまったら、全部に影響してしまうということを彼らは理解して守っているんですね。

村井 日本にも、「森は海の恋人」という言葉があります。宮城県では、森を育ててカキの養殖をしようという取り組みをしています。しかし、まだこういう例は少ないですが…。

日本も島国であり、森と川と海の循環がある。その上、四つの季節が必ず巡ってくるという世界でもまれな豊かな国です。しかし、ちょっとどこかダメにすると連鎖的に全体がダメになりますから、宮城県のカキの養殖のように、もっと自然循環というものを考えていかないといけません。 

—— せっかく豊かな環境の中に生れたのですから、それを大事にしていかなければいけませんね。

近年、環境汚染や破壊について、「CO2を減らせ」とか「環境ホルモンが危ない」という言葉をよく耳にします。しかし、それらは目ではっきりととらえられるものでないため、地球規模の環境汚染・破壊を言われても身近に感じられず、つい誰かが何とかしてくれるだろうなどと思ってしまいます。しかし今日のお話のように、小さな島での環境汚染、破壊の話だとすごく現実感がありますね。「大」は「小」の集まりですから、まずは島などの小さな単位で環境を考えていくことの必要性を感じました。

本日はありがとうございました。


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