こだわりアカデミー
選択する側の生物が間違いをするから進化が起こるんです。
生物のサバイバル戦略−共進化
立教大学理学部助教授
上田 恵介 氏
うえだ けいすけ
1950年、枚方市生れ。大阪府立大学で昆虫学を学んだ後、大阪府立大学理学部大学院に進み、鳥類学を専攻。三重大学講師を経て現職に。理学博士。小学校時代から日本野鳥の会に所属する、生粋のバードウォッチャー。95年はオーストラリアのダーウィンでセアカオーストラリアムシクイという小鳥の研究に費やし、現在もこの研究は進行中。著書に『一夫一妻の神話−鳥の結婚社会学』(87年、蒼樹書房)、『鳥はなぜ集まる−群れの行動生態学』(90年、東京化学同人)、『♂♀のはなし−鳥−』(93年、技報堂出版)、『花・鳥・虫のしがらみ進化論−「共進化」を考える』(築地書館、95年)がある。
1997年1月号掲載
果実が果肉をつけたのは鳥やサルをおびき寄せるため
──植物とそれ以外の生物にもやはり「共進化」が起こるわけですか。
上田 もちろんです。例えば、果実にはいろんな色や大きさ、味がありますよね。モモやリンゴなどの甘くて大きな果実は、人間が長い栽培の歴史の中で改良を重ねていったものですが、ヒトがいなかった時代、それらの原種は小さくて甘味も少なかったでしょう。じゃあ、それらが何のために存在していたのかというと、鳥やサルたちをおびき寄せるためです。
──種を運んでもらうために?
上田 植物の中には、さやがはじけて種子を遠くへ飛ばしたり、風に頼って分散を図るのもいます。これらの方法だと、あまり重い種子をつくるわけにはいきません。しかし、軽い種子では発芽率、定着率も悪くなります。種子のために十分な養分を蓄えてやること、遠くへ分散させること、動けない植物がこの相反する矛盾を解決するために生み出した方法が、鳥やサルを引き寄せるための果肉をつけることだったのです。そして、甘くしたり、ちょっとでも目立つ色にすればあちこちに運んでもらえます。
野山を歩くと緑や茶色の実よりも赤い木の実が多く目につきますよね。あれらも鳥に種子を運んでもらうために、果肉をつけ、目立つような色になっていったんです。また赤い色にはもう一つ効果があります。赤は鳥には見えやすく、種子を食害する昆虫には見えにくい色なので発見されにくい。もし、発見されたとしても鳥が食べにやってきてくれるわけです。
──その鳥も、他の生物の餌になるわけですよね。そういった天敵から逃れるために、鳥自身も、何か工夫したりしているんですか。
上田 そうですね。特徴的なものをあげれば、そ嚢という器官が発達しています。これはくちばしのすぐ近くにあり、一時的に食べ物を貯蔵しておく器官で、鳥は自然界には天敵がたくさんいますから、食べ物が見つかるととにかくここに詰め込み、安全な場所に行き、胃の方に徐々に送っていって、ゆっくり消化するというシステムです。
それから周りの鳥を追い払うために、鳥同士でも警戒音を似せている例もあります。シジュウカラとかヒガラの種がそうです。例えば天敵が現れていないのにピッと鳴いたら、自分たちの仲間の声だと思ってびっくりして逃げる。逃げたところでゆっくり食事をする。まさにだましだまされの世界ですよね。
『花・鳥・虫のしがらみ進化論 「共進化」を考える』(築地書館) |
現在は同大学の教授に。また近著に「擬態−だましあいの進化論−1、2」、「種子散布−たすけあいの進化論−1、2」がある(いづれも築地書館より発行)。
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