こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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川に棲む生き物の通り道「魚道(ぎょどう)」。 生態系を守るためにも欠かせないものなんです。

生き物たちの視点からの「水工水理学」

日本大学理工学部土木工学科教授

安田 陽一 氏

やすだ よういち

安田 陽一

1988年日本大学大学院理工学研究科博士前期課程修了(土木工学専攻)、93年博士(工学日本大学)取得。94年日本大学理工学部土木学科専任講師、2000年同助教授、06年より現職。専門分野は水工水理学で、河川の水の流れについて、そこに生息する生き物の視点に立ち、その生態系保全のために物理環境はどうあるべきかを研究している。00年「アメリカ土木学会(ASCE)水理学論文最高賞」、05・13年「ASCE水理学討議論文最高賞」を受賞しており、2度の受賞は世界初。著書に『技術者のための魚道ガイドライン』(コロナ社)、共著に『水理学』(理工図書)、『写真で見る自然環境再生』(オーム社)など。

2013年12月号掲載


 安田 はい。しかし、その斜めにすることが重要、かつ最大のポイントなんです。
断面が矩形で鉛直な壁ですと、左右も真ん中も水は同じ速さで流れます。ところが、左右の壁を斜めにしたプール型階段式の台形にすると、真ん中の流れは激しいけれど、壁際は緩やかになる。つまり、脇の緩やかな流れに沿って、無理なく魚やエビ、カニ、その他の水生生物が川を上り下りできるのです。

──なるほど。水工水理学の基礎があったからこそ、この発想が思い浮かんだわけですね。

安田 おっしゃる通りです。魚道整備は、地域や川の特性、そこに生息する生き物によって構造を変えなくてはならないのですが、基礎があったから、さまざまな応用が利きました。
前述した1998年の長崎でのプロジェクトを皮切りに、現在までで200以上の魚道プロジェクトに携わっています。

 
安田先生のスケッチ画。アユの迷入対策を考慮した台形断面魚道からの流れと堰(頭首工)からの流れとのつながりの工夫を描いたもの〈画像提供:安田陽一氏〉  

──15年で200以上ものプロジェクトを手掛けるとは、すごいですね。

 安田 苦労も絶えませんが(笑)。
魚道は、生態系のバランスを守るためにも欠かせないものなんです。川はただ流れればいいというわけではなく、例えば産卵して死んだサケが分解するための淀んだ場所も必要です。しかし、人の手が入るとそうした場所がなくなっていることが少なくありません。さらに言うと、洪水のときに水が速やかに海に流れればいいという「排水路」的な考え方で川をつくっていることも多く、これは生態系にとっては深刻な問題なんです。
環境問題がクローズアップされている中、この相矛盾した考えをどう調和していくかが大きな課題ですね。


近著紹介
『技術者のための魚道ガイドライン』(コロナ社)
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