こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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宇宙には、太陽系以外の惑星が存在し 地球外生命が見付かる日も近い未来です。

天文学最前線−つぎつぎに発見される「第二の地球」

東京工業大学地球惑星科学科教授

井田 茂 氏

いだ しげる

井田 茂

1960年、東京都生れ。84年、京都大学理学部卒業、89年、東京大学大学院地球物理学専攻修了。93年、東京工業大学地球惑星科学科助教授、2006年、東京工業大学地球惑星科学科教授。95年から97年までカリフォルニア大学サンタクルーズ校、コロラド大学ホルダー校で客員研究員。専門は惑星物理学。著書に『惑星学が解いた宇宙』(洋泉社新書)、『一億個の地球』(共著、岩波科学ライブラリー)、『異形の惑星』(NHKブックス)など多数。

2006年4月号掲載


惑星発見ラッシュ

──先生の著書「異形の惑星」を拝読したところ、「宇宙には、地球以外にも同じような惑星があり、生命が存在するのは当然である」というのが、今や常識になってきているそうですね。

井田 ええ。少し前まで研究者の間でも、地球は、太陽系、銀河系の中でも稀な存在で、「奇跡の星かもしれない」とも思われていました。


地球外生命が存在する可能性も

──これまでに、どんな惑星が見付かりましたか?

井田 発見された惑星の中には、太陽系からは想像できない、異形の惑星がありました。

例えば、恒星の至近距離を、約3日という猛スピードで周回する灼熱の巨大惑星「ホット・ジュピター」や、恒星に対して楕円軌道を描いて周回し、夏冬の温度差が100度以上もある巨大惑星「エキセントリック・プラネット」などが見付かっています。

「エキセントリック・プラネット」の楕円軌道(青線)のイメージ図。通常の惑星軌道に比べ、恒星からの距離を大きく変え、灼熱から酷寒まで、めまぐるしい四季を繰り返す。
(左)「ホット・ジュピター」の想像図((c)Greg Laughlin & James Cho)。白い三日月状の部分は恒星の光が当たっている部分。影の部分も摂氏1,200度という高温になっていることが予想されるため、赤く輝いている。(資料提供:井田茂氏)
(右)「エキセントリック・プラネット」の楕円軌道(青線)のイメージ図。通常の惑星軌道に比べ、恒星からの距離を大きく変え、灼熱から酷寒まで、めまぐるしい四季を繰り返す。

──それは興味深い

井田 その他にも、地球と同じように、海のある惑星が存在することが明らかになってきました。

──どういった惑星なのですか?

井田 地球の10−20倍もの質量を持っており、氷でできている可能性が高いことが判明しています。

地球に対する月のように、恒星に向かって常に同じ面を向けて周回すると、表は熱く裏は冷たい惑星になります。

もし氷でできた惑星なら、恒星の熱によって表面の氷が融け、「海惑星」になっている可能性が高いのです。

「海惑星」の断面イメージ図。氷でできている惑星ならば、恒星の熱によって表面の氷が融け、海に覆われた惑星になっている可能性が高い。
「海惑星」の断面イメージ図。氷でできている惑星ならば、恒星の熱によって表面の氷が融け、海に覆われた惑星になっている可能性が高い。

——なるほど。もし「海惑星」なら、地球のように生命が誕生する可能性が高くなりますよね。

井田 ええ。水と有機物、エネルギーがあれば、その可能性は十分に考えられます。  銀河系の恒星の中で、海のある惑星を持つ星は全体の10%、約数百億といわれています。

——そんなにあるのなら、近い将来、地球外生命体が見付かっても不思議ではないかもしれないですね。

井田 はい。これまで発見された惑星は、地球から100〜200光年の範囲にあるもので、銀河系のほんの一部です。現在の観測技術だけでも、相当数が見付かっているわけですから、今後が楽しみです。

——こうした惑星の発見によって、太陽系以外の惑星にも、地球のような星が多数存在することが期待できるようになったというわけですね。


系外惑星の観測方法

──ところで、太陽のように、熱と光を発する恒星に対し、惑星は周囲を公転し、自らは発光しない星ですよね。明るい恒星の周りにある、目立たない惑星をどうやって見付けるのですか?

惑星「HD149026b」が恒星の前を通過している想像図((c) Lynette Cook)。黄色いのは恒星で、黒く影になっているのが惑星を表す。恒星に近く、温度が高いため、惑星大気が流れ出て尾を引いている可能性がある(資料提供:井田茂氏)
惑星「HD149026b」が恒星の前を通過している想像図((c) Lynette Cook)。黄色いのは恒星で、黒く影になっているのが惑星を表す。恒星に近く、温度が高いため、惑星大気が流れ出て尾を引いている可能性がある(資料提供:井田茂氏)

井田 最も多く用いられるのは、惑星の引力による恒星のふらつきを調べる「ドップラー遷移法」です。

これは、ハンマー投げのように、惑星が回ると、それに応じて恒星も回るので、その揺れを観測することで惑星を発見する方法です。

また、惑星が恒星面の前を通過する場合、惑星の断面積の分だけ、恒星の光は弱くなります。この減光から惑星を検出する「トランジット法」もあります。その他にも、相対性理論を利用した観測方法なんかもあるんですよ。

——なるほど。いろいろな方法で、惑星の存在が証明できるわけですね。

井田 さらに今後は、宇宙望遠鏡を使い、直接惑星を観察することが、技術的に可能となる予定です。


惑星形成の統一理論を目指す

──今後、地球惑星科学の研究は、どのように進んでいくのでしょう?

井田 太陽系以外の惑星形成も説明できる、統一理論の構築を目指していきます。 最近では、半径が大きい円軌道を回る、太陽系に似た系外惑星も発見されています。

——ということは、系外惑星の中でも、異形の惑星と、太陽系に似た惑星の2種類があるわけですね。

井田 なぜこのような多様性が生じるのか考えるために、太陽系だけではなく、すべての惑星形成について、統一した理論モデルを構築する必要があります。

——今後、ますます楽しみな分野ですね。

井田 はい。現在、さまざまな分野の研究者が系外惑星の研究に入ってきており、これまで思ってもみないような方法で、惑星が見付かるようになりました。

常識にとらわれるのではなく、新たな可能性を考え、観測と理論の両輪で研究を進めていきたいと思います。

——新しい系外惑星、そして、地球外生命が見付かる日を、楽しみにしております。  本日はありがとうございました。


近著紹介
『異形の惑星』(NHKブックス)

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