こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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火山大国日本!噴火のメカニズムだけではなく 防災知識も知っておいて欲しいですね。

知られざる火山噴火のメカニズム

姫路工業大学大学院理学研究科教授

井田 喜明 氏

いだ よしあき

井田 喜明

1941年、東京都生れ。65年、東京大学理学部物理学科卒業。67年、同大学院理学系研究科修士課程修了、70年、同博士課程修了。東京大学物性研究所助手、東京大学海洋研究所助教授、東京大学地震研究所助教授、同教授を経て、2002年より現職。理学博士。93年−03年までの10年間に渡り、火山噴火予知連絡会会長を務める。現在、同会名誉顧問。03年、第50回交通文化賞(国土交通省)受賞。共著に『火山の事典』(95年、朝倉書店)、『火山とマグマ』(97年、東京大学出版会)など、著書・論文多数。

2004年3月号掲載


マグマの誕生から噴火まで。地球の中で何が起きている? 

──この度は、国土交通省の交通文化賞を受賞され、誠におめでとうございます(2003年12月受賞)。公的活動や学術研究等を通じて交通文化の向上に貢献した人に贈られる賞だそうですね。

井田 ありがとうございます。名誉ある賞なので、大変光栄なことだと思っております。

──これまでのご研究の成果と火山噴火予知連絡会(予知連)の会長を務められた功績に対する受賞だそうですが、本日も、その辺りの話についていろいろとお伺いしたいと思っております。

まずは初歩的なことから教えていただきたいのですが、日本は火山国でありながら、その仕組みを理解している人は少ないのではないかと思います。私の周りでも、地球の深部に沸々と煮えたぎったマグマが流れていて、それが噴き出して火山ができると思っている人が多いのですが、本当のところはどうなのでしょうか?

井田 確かに火山からマグマは出てきますが、地球の奥からやって来るのではなく、地表近くで作られるものです。マグマはもともと厚さが2900キロメートルもある、マントルという高温の岩石の層の最上部で生れます。このマントルの岩石が地表近くに上昇すると圧力が低くなってドロドロに溶け出し(減圧融解)、マグマを作り出すのです。噴火によって地表に出てきたマグマを溶岩といいます。

──マグマは固いマントルが溶けたものなんですね。先生は、そのマグマが上昇して噴火するメカニズムを証明なさったそうですが、火山にはいくつかのタイプがあって、メカニズムも異なるとか。

井田 はい。まず、火山は存在する場所によって大きく3つに分けられます。海嶺火山、ホットスポット火山、そして海溝沿いにできる火山です(図参照)。私が主に研究したのが、海溝沿いにできる火山−−島弧型火山や大陸型火山のマグマ上昇の仕組みです。

火山の種類と発生場所
火山の種類と発生場所

──それぞれの仕組みについて教えてください。まず、海嶺火山とはどのような火山なのですか?

井田 海嶺とは海底山脈みたいな海底の高まりで、プレートが新しく生成される場所のことです。海嶺火山の頂上部にあって、割れ目からマグマを噴出します。

──プレートというのは、地球の表面をとりまく厚い岩盤のことですね。ぶつかり合ったり沈み込んだりして地震を起こす原因となっているという…。

井田 そうです。地球のプレートは大きいものが十数枚に分れていて、それぞれが異なる速度で水平に移動します。この運動に対応してマントル内部に流れが起こり、高温のマントルが下から沸き上がってマグマを作ります。これによって海底山脈が生れ、プレートが左右に分断され、流れ出た溶岩が新たなプレートの一部となるのです。

──つまり、海底の割れ目からマグマが湧き出てくるのが海嶺火山なんですね。

井田 そうです。東太平洋海嶺や大西洋中央海嶺の火山が代表的です。

これに対して、プレートの動きとは関係なく、マントル内に点在する熱源(ホットスポット)からマグマが生産されるのが、ホットスポット火山です。有名なハワイのキラウエア火山がこのタイプです。

ホットスポット火山の代表格・ハワイのキラウエア火山。流れ出す溶岩を間近に見ることができる(写真提供:井田喜明氏)
ホットスポット火山の代表格・ハワイのキラウエア火山。流れ出す溶岩を間近に見ることができる
(写真提供:井田喜明氏)

──では、海溝沿いにできる火山とは?

井田 海洋プレートが大陸側のプレートに沈み込んだ影響でマグマが形成される火山です。沈み込む時に水や堆積物が一緒に引きずり込まれることで融点が低下し、これと減圧融解が影響し合ってマグマが作られます。日本の火山はこのタイプで、島弧型火山といいます。

──火山の誕生過程が違うということは、当然噴火の仕方も違ってくるのでしょうか?

井田 おっしゃる通りです。例えばキラウエア火山は、溶岩がドロドロと流れ出る噴火ですが、日本の火山は火山灰や火山弾(マグマが砕かれたもの)が噴出する、いわゆる爆発型が多いのが特徴です。

──だからキラウエア火山が緩やかな「盾」の形状をしているのに対して、日本の火山は傾斜のきつい形なんですね。

それにしても、私達の知らない間に地球の内部ではさまざまなことが起こっているようですが、目で見えないものを実験で再現するのは、さぞかし大変ではないですか?

井田 マグマの生成に関していえば、それほど高い圧力は必要ではありません。地中でマグマができ始めるのは深さにしてせいぜい100キロメートル、気圧にして10万気圧くらいなので、それほど圧力は高くなく、実験可能な範囲なんです。

ただ、爆発がどうやって起こるか、どういう時に火山灰になったりするかということになると、実際の環境に左右される面が大きいので再現は難しいですね。


2000年の三宅島の噴火は2,500年ぶり

──ところで先生は、2003年まで10年間、予知連の会長を務めていらっしゃいました。大変な重責だと思いますが、ご苦労されたこともあったのではないですか?

井田 関係機関の連携や情報交換、火山現象について総合的な判断を下すというのが予知連の役割ですが、中でも最も大変なのは噴火の予測をすることです。しかし、噴火についてはそのメカニズムがやっと見えてきた段階です。完璧に予知しろというのはまだまだ現実には難しいことで、そこが一番苦労しました。

──そうですよね。天気予報だって外れることもあるのに、地中で起こっていることを予測しろというのは限界があると思います。しかし、2000年の有珠山の噴火は、ほぼ予測通りだったとか…。

井田 あの時は同じような噴火を過去に何度か経験していたので、データを分析すればそれなりに予想がついたんです。

しかし、同じ年の三宅島の噴火は、全くの予想外でした。地質学的なデータから見て、三宅島で2,500年前に大噴火があったことは分っていたのですが、近年の活動状況から見て同じことが起こるとは予想できませんでした。

──とおっしゃいますと?

2000年に大噴火した三宅島。頂上は大きく陥没し、アスファルトの地面に穴が空くほどの火山弾が飛んできた(写真提供:井田喜明氏)
2000年に大噴火した三宅島。頂上は大きく陥没し、アスファルトの地面に穴が空くほどの火山弾が飛んできた
(写真提供:井田喜明氏)

井田 三宅島は日本の火山では珍しく非爆発的に溶岩を出す火山で、溶岩もわりと頻繁に出していました。ですから噴火が起きても溶岩が流れ、それも今回の活動が始まった時点の経緯から見て海の中で起こるだろうと予測していたのです。

──それが2500年ぶりに山頂で大噴火を起こした…。有珠山の時とは違ってデータなどは残っていませんから、予知をするのは非常に難しいことだったと思います。

井田 しかし、予知連としてはそこで立ち止まっているわけにはいきません。爆発の原因と現状を把握して、次にどうなるかを予測しなくてはならないのですが、想定外のケースだけに、学者の意見は当然食い違っています。会議で10時間以上議論しても結論が出ないこともありましたが、外では政府や三宅島の関係者、マスコミが我々の結論を待っているわけですから、何時間も待たせて結論が出ません、というわけにはいかない。

最初は一番科学的な意見の集約を目指していたのが、最後はどこに落としどころをもっていくか…。意見をまとめるのがとても大変でした。

──我々素人は、専門家なら簡単に予測ができるのではないかと思ってしまいがちですが、自然というのは100%の正解があるわけではない。そんなに簡単ではないのですね。

井田 はい。しかし、私達研究者にとっては、研究することがたくさん残されているということは、魅力でもあるんです。


富士山は確かに生きている。自然のメッセージを読み取ろう

──数年前、富士山の火山性地震が頻繁になり、噴火するのではないかと新聞や週刊誌が騒いでいました。富士山噴火については誰もが関心あるようで、当社のスタッフからもぜひ先生に聞いてきて欲しいといわれていまして…(笑)。

井田 火山性地震は深部の活動であり、それほど危険なことではありません。むしろ、富士山が確かに生きている証拠です。「私を忘れないで」というメッセージでしょう。

──生きているということは、やはり将来噴火する可能性があるということですか?

井田 確かに可能性はありますが、今すぐということではないと思います。じゃあ何年後か、といわれると、正直いって今の段階で正確な答えを出すのは難しいです。

しかし、いつ噴火するかということよりも、覚えておいていただきたいのは、あの規模の火山が新たに噴火する場合は、それなりの活動を事前にするはずだということです。そして、今の技術を持ってすれば、そのサインを読み取れないことはないでしょう。噴火の1年くらい前に予測できる可能性も低くありません。重要なのは、それまでにきちんとした防災対策をしておくことです。

──なるほど。それにしても、富士山の噴火話となると、どうしてこうも関心が高まるのでしょうか?

井田 富士山の地震活動が活発になった時に、外国のメディアから「もし富士山が噴火した場合、日本人の心情にどう影響するのか?」と聞かれたことがありました。その時、こんな視点もあるのかと、感心したんです。

活動的な火山で地震が起こるのは普通のことで、他の山でそれが起こっても誰も騒がないのに、それが富士山となるととたんに大騒ぎになる。それは、ただ広範囲な被害をもたらすという問題だけではなくて、富士山が日本のシンボルとして非常に大きな意味を持っているからなんだと思います。

──確かに富士山が見えると、妙に有り難い気持ちになります(笑)。日本人にとって富士山は心理的に特殊な山なんですね。

では最後に、火山国に住む者としての心構えを教えていただきたいと思います。

井田 それは、「備えあれば憂いなし」ということです。

第1に、噴火の可能性がある火山には近付かないことが大事ですが、万が一突発的な噴火が起こった時のために、避難経路やハザードマップなどを日頃から確認しておくことが重要です。また、噴火していないから安全だということもありません。昔から、登山客が火山ガスに巻き込まれて遭難する事故がよく起きています。ガスは噴火活動と無関係にも出ていて、窪地に溜まり易いので注意が必要です。

噴火がいつ起きるかということだけではなくて、火山がどういうものか、事前に最低限の知識を知っておいて欲しいと思います。

──防災上の対策を含めて、私達はもっと火山に関心を持つべきですね。

本日は貴重なお話を、ありがとうございました。



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