こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

透視、テレパシー、etc・・・ 超常現象が現れやすいのは、 人間が無意識の状態のときです

「超能力」を科学する

明治大学情報コミュニケーション学部教授

石川 幹人 氏

いしかわ まさと

石川 幹人

1959年東京都生まれ。82年東京工業大学理学部応用物理学科卒、83年同大学院総合理工学研究科物理情報工学修士課程修了。その後、松下通信工業(株)(当時)で放送用の文字図形発生装置を開発。97年明治大学文学部に助教授として赴任。2002年より教授。同年、米国デューク大学の客員研究員として、超心理学のメッカである「ライン研究センター」に滞在。超心理学の歴史と現状を調査研究する。帰国後、日本の大学で唯一の超心理学研究室「メタ超心理学研究室」を主宰。著書に『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)など多数。

2015年9月号掲載


科学では説明がつかないものを科学的に解明する

──先生の著書『「超常現象」を本気で科学する』を大変興味深く拝読させていただきました。今日はいろいろとお伺いしたいのですが、そもそも超常現象とはどういう現象のことをいうのですか?

石川 大勢の人が体験している現象であるにもかかわらず、物理学をはじめとする現在の自然科学の知見では説明のつかない現象のことをいいます。

──というと・・・、幽霊や、一般的には「超能力」といわれるテレパシー、透視、予知・・・などが思い当たりますが・・・。

石川 まぁ、一般的にはそう考えていただいて結構です。

──では、「超常現象を科学する」ということは、自然科学では説明できないことを科学する、ということに?

石川 そうです。科学というのは、分からないことをしっかりと観察し、それが何であるかの仮説を立て、その仮説に基づいて理論的に証明していくことです。私はその方法で「超常現象」を解明したいのです。


──物理や化学の分野と同様の方法で理論化するということですね。

石川 はい。科学の歴史は、それまで説明のついていなかった現象のメカニズムを解き明かしてきた歴史でもあります。ですから、超常現象も科学の対象になると考えているのです。

データが証明! 超常現象は「ある」

──先生の著書によると、これまでにいろいろな実験から超常現象を確認できているとか。

石川 はい。まずは「透視」を例に挙げてみましょう。透視とは、隠れた物体や遠くにある物体を見透せる能力のこと。この能力が本当にあるのかどうかを実験したのが、1930年代に米国デューク大学で心理学の教授を務めたジョゼフ・バンクス・ラインです。ラインは「ESPカード」という星印や波型のマークなど、5つのシンボルマークが描かれたカードを用意し、裏返した状態で被験者がどのカードがどのマークかを当てるという実験を行いました。その結果、確率論では20%の的中率であるところ、平均して22%の的中率という結果が得られました。

ラインが開発した「ESPカード」。切り混ぜた1組のカードを裏向きにし、実験者が上から1枚ずつ取り上げ、そのカードの図柄を被験者が当てるというもの〈写真提供:石川幹人氏〉

──わずかですが、有意性のあるデータですね。

石川 はい。ただし、この数字は被験者が実験に集中しているときに高くなりますが、何度も繰り返して「飽き」がくると、だんだん下がっていくのです。
そのほか、「テレパシー」の実験例もあります。テレパシーとは、人の考えを読み取る能力のことですが、この実験では4枚の絵を用意して、1枚を頭の中でイメージし、離れた部屋にいる相手(被験者)に送り続けます。被験者は4つの絵から自分が思い描いたイメージに最も近い絵を選び、それが送り手の見ていた画像であれば成功というわけです。

──単純に考えると、25%の確率で一致しますね。

石川 その通りです。実はこの実験では、被験者を視覚や聴覚など外的刺激がほぼ遮断された状態にし、夢見に近い、いわば無意識の状態で行いました。具体的には、被験者の両眼にピンポン玉を半分に割った半球をそれぞれ被せて、そこに弱い赤色のライトを当てます。すると、被験者の視野はどこを見てもぼんやりとした赤一色になるので、目が失われたように視覚が減退してきます。このとき同時に、耳にもヘッドホンを通じてシャーという雑音を聞かせると、同様に聴覚も減退します。これが「ガンツフェルト実験」と呼ばれているものです。実は私自身もこの状態を体験しましたが、外界からの刺激が感じられない状態は、内的イメージが生まれやすいのです。
1974年から始まったこの実験は、30年間で総計3,145回実施され、うち1,008回が成功。32%の成功率になりました。確率が7ポイント上回ったことになります。これは、「偶然ではないけれど、何かが働いた」と十分に認められる数値です。

──それは驚きですね! 今のお話を伺うと、超常現象は集中したり無意識のときに現れやすいということに?


石川 はい。そう考えられます。人は何かに集中したり、無意識の状態でいるときに特殊な能力を発揮しやすいのではないかと・・・。

──そういえば、私もたまに、ふとしたときや夢の中で、悩み事の答えが見つかることがあります。それも関係していますか?

超常現象を促進する意識状態とはどのようなものか、自ら実験で試す石川氏〈写真提供:石川幹人氏〉

石川 まさにそうですね。実は、1936年にノーベル生理学・医学賞を受賞したオットー・レーヴィにも、受賞につながったアイデアを2度も夢で見たという有名な話があります。普段は全力で考えて考えて、いったんふと忘れて無意識になったときに思わぬアイデアが意識上へ浮かんでくるという、こうした現象を「セレンディピティ」というのですが、発明や発見をする人の中によく見られます。

脳科学が、超常現象解明の突破口に?

──これまでのお話で、「偶然ではない何か」がありそうなことは分かりましたが、そうした現象を科学的にどう解明していこうと?

石川 脳科学が突破口の一つになるかもしれないと考えています。

──といいますと?

石川 例えば、理性や思考を司るのは脳の表面部分の大脳新皮質だといわれていますが、睡眠欲や食欲などの動物的本能や感情は脳の奥深くにある視床やその周辺部が働きます。超常現象が起こりやすい無意識という状態は、脳の中の「感情」に近い部分の働きが主動しているものと考えられますので、脳の中心部分の研究が進めば、超常現象の解明につながるかもしれません。

超常現象が起こりやすい「無意識」という状態は、脳の中の「感情」に近い部分の働きが主動しているものと考えられるので、視床やその周辺部の研究が進めば、超常現象の解明につながるかもしれない

──そうなんですか! 超能力をはじめとする超常現象が私たち人間の脳の働きと関係しているというのは意外ですが、その仕組みが分かればいろいろな謎も解けそうですね。
先生はそうした超常現象の研究を、今後どのように活かしていきたいとお考えですか?


石川 人間の「創造性」を高めることにつなげていきたいと考えています。先ほどのセレンディピティですが、創造的な職業に就いて実績を上げている人々は皆、この可能性を持っているのではないか。無意識の大きな可能性に着目し、創造性がどのように生まれるのか、どうしたら高められるのかを追求したいと思っています。

──それが分かってくれば、素晴らしい発明や発見が増えるかもしれませんね。

デューク大学の客員研究員として、2002年の夏期研修プログラム(世界で唯一の本格的な超心理学のコース)に参加した石川氏(前から2列目右から2人目)〈写真提供:石川幹人氏〉

石川 そうなるといいですね。超常現象を「非科学的」「胡散臭い」などと批判する人もいますが、私は将来的にはこの研究を社会に役立てていきたいと考えています。もちろん、超常現象をむやみに受け入れると、霊感商法やカルト宗教などの社会問題を助長するのも事実ですから、こうしたことの防止に努めるのもわれわれ研究者の役割と心得ています。

──超常現象を科学する。一見、突飛なテーマのようにも思えましたが、お話を伺ってとても興味がわいてきました。将来の活用も含め、今後のご研究に期待しています。
本日はありがとうございました。


近著紹介
『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ