こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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「平均的な顔」は「美人顔」。 赤ちゃんの視覚研究から、人間の特殊な能力が見えてきます。

よく見る顔が美人顔?!
赤ちゃんの視覚で分る顔ものさし

中央大学文学部心理学研究室教授

山口 真美 氏

やまぐち まさみ

山口 真美

1987年、中央大学文学部卒業。お茶の水女子大学大学院人間発達学専攻単位取得退学。人文科学博士。(株)ATR人間情報通信研究所客員研究員、福島大学生涯学習教育研究センター助教授を経て、現在中央大学文学部心理学研究室教授。主に生後8か月までの赤ちゃんを対象に、脳と心の発達について研究している。著書に『赤ちゃんは顔をよむ―視覚と心の発達学』(紀伊國屋書店)、『赤ちゃんは世界をどう見ているのか』(平凡社新書)、『視覚世界の謎に迫る―脳と視覚の実験心理学』(講談社ブルーバックス)など多数。

2008年4月号掲載


脳の中には「顔」の認識だけに特化した部分が


──先生のご著書を何冊か拝読いたしました。赤ちゃんを通して、視覚世界の謎をご研究されているようですね。

山口 はい。視覚を通じた脳と心の発達を研究しています。「視覚」というと、画像処理をするだけの能力と勘違いしがちですが、実は脳や心と密接な関わりを持っているのです。

──と、おっしゃいますと・・・?

山口 特に人間の「顔」に対する認識については不思議なことが多いので、そういった分野の研究をしています。脳を計測する実験をいろいろと行なってきましたが、それは人間の脳の中に「顔」を認識することだけに特化した部分があるからなのです。この部分が欠損してしまうと、人の顔を見分けることができなくなる「相貌失認」という病気になってしまいます。

──脳に顔を識別するためだけのエリアがわざわざ設けられているということは、人間にとって「顔」に対する認識は非常に重要であるといえますね。

確かに、私達は生きていく上で、何百人、何千人もの顔を見分けていかなければなりませんが、それはどうしてできるのでしょうか。


山口 私達が記憶している「人の顔」というのは、実はその人の骨格ではなく、一番よくする「表情」なんです。表情の中に、その人らしさがあるんですね。


──なるほど。いわれてみると、誰かの顔を思い浮かべる時は、いつも同じ表情が浮かんできます。逆に、目、鼻、口といった一つひとつの造作は、あまりはっきり浮かびませんね。

山口 また、デフォルメされた似顔絵を「顔」だと認識できるのも、人間特有の能力です。私達は、頭の中に「顔」というもののイメージが強くあって、そこに対象をはめこんで考えているのです。
例えば、ピカソの描いた抽象的な絵を「顔」だと認識することは、他の動物にはできません。人間は抽象的なイメージで物事を見ることができる。これは、人間だけの高度なテクニックといえます。

中央大学文学部心理学研究室のメンバー(前列左が山口氏)。同研究室では、主に生後8か月までの赤ちゃんを対象に脳と心の発達について研究をしているほか、知覚に関する研究発表や読み会をする研究会「タマチカ」なども開催している。<写真提供:山口真美氏>
中央大学文学部心理学研究室のメンバー(前列左が山口氏)。同研究室では、主に生後8か月までの赤ちゃんを対象に脳と心の発達について研究をしているほか、知覚に関する研究発表や朗読会をする研究会「タマチカ」なども開催している。<写真提供:山口真美氏>


近著紹介
近況報告

山口真美先生が編纂された『知覚・認知の発達心理学入門 実験で探る乳児の認識世界』(北大路書房)が発売中です。知覚実験の結果をベースに、乳児から見た世界は大人と同じだろうか? といった謎に筆者たちが迫ります。ご興味のある方はぜひご覧ください。

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