こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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子供の頃住んだ「家」は 人間の気性形成に大きな影響を与えます。

気性と性格の心理学

心理学者・精神医学者  東京工業大学名誉教授

宮城 音弥 氏

みやぎ おとや

宮城 音弥

1908年東京生まれ。31年京都帝国大学文学部哲学科卒業。34年フランスに留学。42年医師免許証を得、45年精神分裂症についての研究で医学博士に。49年東京工業大学教授となる。以来、東京大学講師、東京教育大学講師、日本大学歯学部教授、東京教育大学大学院講師を務め、現在日本大学教授、東京工業大学名誉教授。その他、国鉄安全会議会長、三菱・生命科学研究所顧問などを務める。主な著書は「人間性の心理学」(岩波書店)、「日本人の性格」(朝日新聞社)、「劣等感」(朝日新聞社)、「日本人の生きがい」(朝日新聞社)、「日本人とは何か」(朝日新聞社)、「夢」(岩波書店)、「心理学小辞典」(講談社)、「娘を早く嫁がせる方法」(光文社)、「性格を変える法」(山手書房)、「人間の心を探求する」(岩波書店)など。

1990年5月号掲載


「生まれつきの気質」は大きく三つに分類できます。

──現在は、人々の生き方とか好みというものが非常に多様化しており、住まいや暮らし方に対する考え方もたいへん個性的になってきていると思います。きょうは心理学の見地から、人間の性格やものの考え方と、不動産や住宅との関連について先生にお話を伺いたいと思います。

宮城 人間の性格には『生まれつきの気質』というものがありまして、それが、例えばどんな住宅を選ぼうかという際、かなり強い影響を与えます。『生まれつきの気質』というのは、大きく三つに分類できます。まず人と人との間に隔てを置くような『孤立型』、人との間に隔てを置かない『融和型』、それと『粘着型』というのがありますが、これは堅い人間、あるいはしつこい人間ということになります。

──『生まれつき』ということは一生変わらないんですか。

宮城 だいたいは一生ついてまわるといわれています。そして、その気質によって住まいに対する考え方も、ひとりぼっちの部屋が欲しいとか、あるいは広々とした家に住みたいというように影響されてくるのです。

その次に、『気性』というものがあります。これは子供の頃住んだ家によって大きな影響を受けます。『強気の人間』、『勝気の人間』、『弱気の人間』というのがそれです。

──家、つまり小さい頃の環境ということですね。

宮城 そうです。そして、その気性がまた、後々成人してからの住宅選びにも影響を与えるのです。すなわち、家と人間とが影響し合って、こういう家に住むとこういう人間になりやすいというパターンができあがるのです。


「強気」「勝気」「弱気」の性格と住居との関連

──そうしますと、例えば幼少期を庭付き一戸建てで暮らした人と、高層マンションで暮らした人とでは、気性がずいぶんと違ってくるでしょうね。「強気」、「勝気」、「弱気」の性格と住まいの関連性について、具体的に説明していただけますか。

宮城 強気の人間というのは、非常に自信満々たる人間です。勝気の人間もある程度似ているんですけれども、勝気であると同時に人の言うなりになりやすい傾向がある。

それと、弱気の人間は本来、神経質であると言われていますが、例えば強気の人間、あるいは勝気の人間の中に弱気の要素がありますと、特に度外れて強きになったり、勝気になったりするんです。

──なんとなくわかります。

宮城 本当に強気の人間は、はたから見ると意外にそうは見えませんけれども、ひどく強気に見える人間はやはり弱気のところがあるんです。だから、かえってそれを補おうとします。例えば家の選択でいうと、ある政治家の家は敷地が2,600坪というたいへん大きなもので、軽井沢などにも別荘を三つくらいお持ちです。また、先年亡くなられた某実業家の家などは、敷地が約5,000坪で建坪も400を超えるそうですから、とにかくたいへん大きなものです。

歴史書などを紐解いても、日本には強気、あるいは勝気の人間が多いんですが、この人たちはみな、ある種の劣等感を持っていた人間なんです。

──例えばどのような・・・。

宮城 育ちや家柄、学歴に関することが多いですね。ですから、「負けるものか」と、劣等感を補おうとして大きな家をつくるんです。

逆に弱気の人間についていうと、こんな立派な人がと思うような人にも意外と弱気な面があったりします。例えば、広いところが怖くて怖くて、とてもいられないという人。

あるいは高所恐怖症で、高い所へ行かれないという人などです。

普段はとても元気な人だと思っていても、ホテルの最上階のレストランで食事をしようと思ったら、突然怖がったりね・・・。こういう人は、恐らく高層マンションなどには住めないと思います。このように、家を選択する場合は、気質より気性の方が強く影響すると思います。

建築家・清家清氏設計の宮城氏邸にて。間仕切りがなく家全体が家族共有の空間になっている。
建築家・清家清氏設計の宮城氏邸にて。
間仕切りがなく家全体が家族共有の空間になっている。

日本人の行動は集団的。流行も極端ですね。

──なるほど。しかし、人間の性格形成は、幼少期だけではなく少年期、青年期の周囲の環境等も関連してくるように思うのですが・・・。

宮城 もちろんです。気質や気性がまず基になって、衣食住の好みが決まってきたり、仲間や友人との付き合いができてきます。それによって、社会生活の形態が決まってくるのです。その形態を漠然と三つのタイプに分けると、集団的人間、個人主義的人間、そして協力的人間となります。

まず、集団的人間というのは、日本人のようなタイプですね。日本の昔の住居などを見てもわかるんですが、みんな一緒に仲良く生活するという形態です。ですから、人に同調しやすいんですね。人の言うなりになる。人がゴルフをやると言ったら、ゴルフをやる。

日本ほど流行というものが極端な国も珍しいですね。

──いっせいに同じ方向に行くんですね。

宮城 これは日本人の特徴なんです。しかし、これにはいい面もあって、例えばテレビが流行りますと、「じゃあ、買おうじゃないか」とみんながいっせいに買ったりする。それで、こんなに急速に発展できたわけですね。

──やはり島国だということが関係あるんでしょうか。

宮城 それもありますし、また狭いところに固まって住んでいたということもあります。同じ所に住んで、みんなでお米などを作っていたわけです。そうすると、みんなツーカーで、言葉なんかもはっきりしなくていいわけです。「行ってくるよ」で、どこへ行ってくるかわかってしまう。主語も目的語もいらないわけです。

同調しやすい面がある一方で、勝気のところがあって、「負けるものか」ということで生活をする。これが日本人の特徴ではないでしょうか。

フランスあたりへ行きますと、まったく違うので驚きます。みんな「人は人、自分は自分」で、自分の考えはこうだとはっきり言います。つまり個人主義的人間とは、フランス人のようなタイプをいいます。この日本人とフランス人に代表されるタイプの違いが、不動産の選択にも影響を及ぼしているのではないでしょうか。

日本人もいまはだいたいの人が自分の部屋を持っているそうですが、旧来はそうではありませんでしたね。日本人は人が平気で入って来られるような部屋に住んでいました。

ですから、自分で考えるということがあまりなかったわけです。ところが、フランスあたりだと、子供の頃から自分の部屋を与えられ何でも自分で考えるように育てられる。つまり、住居という問題だけではなくて、住居プラスしつけになってくるんです。8時半になると、「もうお前、寝る時刻だよ」と、自分の部屋に入れられてしまう。そんな生活をしますから、自分で考えるようになります。これが日本人と非常に違うところです。

さて、それでは協力的人間はというと、アメリカに代表されるタイプをいいます。アメリカは単一民族ではなくて、移民の国でしょう。みんな実に協力し合うんです。もちろん、ヨーロッパでも個人主義的とはいえ、協力しなくてはやっていけませんから、そういう要素はありますが、アメリカほどではないでしょう。

ちょっとしたエピソードをご紹介しましょう。

ある日本人がアメリカへ行って列車に乗っていた時、駅と駅の途中で列車が故障してしまったんだそうです。乗客は「いつ出せるんだ」とか何とか、みんな口々に言っていた。ところがそのうち、近くの村から人が来て列車の車掌と話をしていたかと思ったら、しばらくして村の人が次々に車を出してきて、列車の乗客を何時間もかかる次の駅まで運んで行ってくれたということです。

その日本人はたいへんびっくりしていました。日本だったら、JRの列車が故障しても近くに住んでいる人は、「JRの仕事じゃないか」と言って、自分の車で乗客を運ぼうなんてことは考えないでしょう。それがアメリカ人は平気でそういうことをやる。非常に協力し合います。

これは実にアメリカ的だと思います。やっぱり移民としてやってきて、お互いに助け合って生きてきていますからね。


今の状況が子供達の将来に影響するんです。

──先生のお話を伺って、不動産業においても非常に参考になると感じたのは、人間そのものが持っている気質とか気性に適合しない物件をいくらお客さまに勧めてもダメだということです。だから逆に、この人がどういう人かということを見抜いて、それなりにお世話するということがまず大切な点ですね。

宮城 そうですね。

──それから、住む人のことを考えると、もちろん今のニーズや状況が前提ですが、将来、次世代の子供達にまで家というものが影響するんだということを、もういっぺんしっかり文化として伝えていくことも必要ですね。

宮城 そのとおりです。人間というものはどういうものかということを知らないと、いい家づくりや都市づくりはできない。それでわれわれなどがずっとお手伝いをしてきたわけです。

──確かに人間が生活していくなかで、不快の部分が多くなってはいけないと思います。これからはもっともっと心理学が、家づくりや街づくりに活用されるようになってくるでしょうね。先生のますますのご活躍をお祈りしております。ありがとうございました。


近況報告

※宮城音弥先生は、2005年11月26日にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)


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