こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

地上に降り注ぐ素粒子「ミューオン」は、 無限の可能性を秘めています。

素粒子による透視で火山噴火のメカニズムを発見

東京大学地震研究所教授

田中 宏幸 氏

たなか ひろゆき

田中 宏幸

2004年名古屋大学大学院博士課程短縮修了。04〜06年カリフォルニア大学リバーサイド校博士研究員、06〜08年日本学術振興会特別研究員、08〜10年東京大学地震研究所特任助教、10〜13年同研究所准教授を経て、現職に至る。受賞歴は、10年(一社)日本鉄鋼協会俵論文賞、11年NPO法人日本火山学会論文賞、13年EPS賞〈地球電磁気・地球惑星圏学会、(公社)日本地震学会、火山学会、日本測地学会、日本惑星学会の5学会による〉など。これまでに、火山体10例、断層体2例、耐震構造探査2例の調査実績を持つ。

2013年7月号掲載


田中 確かに、いろいろな方向から飛んでくるのですが、原子核乾板と呼ばれる透視撮影用の特別なフィルムを何層か重ねることによって、全ての層を貫通している飛跡を基に、一つの方向を定めるのです。

──まるで、X線を用いてレントゲン写真を撮るようなものですね。人間の体の中も、昔は見ることができませんでしたが、レントゲンやCTなどの発明により見えないものが見えるようになった。それと同じようなイメージでしょうか。

田中 おっしゃる通りです。ミューオンの透過性を利用して撮影するこの手法を、われわれは「ミュオグラフィ」と呼んでいるのですが、これは火山の中を撮影する一種のレントゲン写真のようなものといえます。

噴火予知、災害防止・・・など、多くの可能性が広がる

──火山の透視により、火山内部のマグマの動きや噴火のメカニズムを新たに発見されたそうですね。これまで、「火山の中にあるマグマの塊が徐々に上昇してくることによって噴火する」といったイメージを持っていたのですが、どうやらそればかりではないようです。

火山内部の透視法の原理。火山の麓に設置した検出器を用いて、火山を通り抜けてきたミューオンの方向と数を測定する〈画像提供:田中宏幸氏〉

田中 はい。観測により、マグマは火山内部で上昇、下降を繰り返し対流していることが分かりました。そのことを見つけるきっかけとなったのが、ミュオグラフィによる透視像だったのです。

──噴火のメカニズム解明や、ひいては噴火予知にもつながる一つの重要な手掛かりがつかめたというわけですね。

昭和新山の透視画像。ミュオグラフィによって平均密度の分布が明らかになった。赤は密度が大きく、青は密度が小さい。中央下に周囲より密度が高い部分があり、そこが火道ではないかと考えられている〈画像提供:田中宏幸氏〉

田中 そうなんです。その様子を動画で撮影できれば、マグマが上がってくる様子なども捉えられて、火山の監視などに役立てることもできるのですが・・・。現在は、透視像を1枚得るために10日ほど掛かっていますから、ミュオグラフィにはまだまだ多くの課題があります。

──他にもミュオグラフィから分かったことはあるんですか?

 


前へ     1 / 2 / 3 / 4     次へ

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ