こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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江戸時代、日本中を駆け巡った 傑作和船『弁才船(べざいせん)』

弁才船にみる日本独自の造船技術

東京大学大学院名誉教授

安達 裕之 氏

あだち ひろゆき

安達 裕之

1947年生まれ。東京大学工学部船舶工学科卒業。専攻は日本造船史。99年〜2012年東京大学大学院教授、現在、東京大学大学院名誉教授。01年より日本海事史学会会長。主な著書に『日本の船〜和船編〜』(船の科学館)、『雛形からみた弁才船』(船の科学館)、『異様の船〜洋式船導入と鎖国体制〜』(平凡社)などがある。

2016年12月号掲載


安達 技術の特徴としては、接(は)ぎ合わせです。長大で幅の広い部材は何枚もの板を接ぎ合わせてつくるので、船材の大きさに制約されず、大は2000石積から小は伝馬船まで、ほぼ同じ構造で建造できました。外観上の特徴は、やはり1本の帆柱に1枚の大きな帆を張ることです。弁才船は順風でしか走れないとよくいわれますが、同じ帆装形式の西欧船と比べて逆風帆走性能は優れており、しかも帆の操作は帆柱に登らず、船上で行えたので、長時間の逆風帆走にも耐えられました。風の良いときには帆走し、風の悪いときには櫓を漕ぐ「漕帆兼用船」から帆走をもっぱらとする「帆走専用船」に脱皮した弁才船は、漕櫓用の乗組員を不用にして経済性を高めたばかりでなく、帆走技術を向上させて航海の迅速化を図りました。

樽詰めの酒を専門に運んだ樽廻船(縮尺1/5)模型。写真上左は船尾にある「かじ」。取り外しができるようになっていた。写真上右は船尾側から見たもの。写真下は船首方向から見た同船。なお、実船の同樽廻船は全長約32m、幅約11m、1,700石積で酒樽3,200樽を積載することができた〈船の科学館所蔵〉 

──船がつくりやすく、人手が減ってコストダウンした上、スピードもアップ…。三拍子揃ったわけですね。日本人のモノづくり文化は本当にすばらしいですね。

縮尺模型や絵馬、事故記録…、 さまざまな資料で証拠固め

 ──ところで先生はどういうきっかけで和船の研究を?


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