こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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「生物多様性」の観点から インシシと人間が共存できる世の中を。

「生物地理学」でイノシシとの共存関係を探る

生物地理学者 奈良大学文学部地理学科教授

高橋 春成 氏

たかはし しゅんじょう

高橋 春成

1952年、滋賀県生れ。81年、広島大学大学院博士課程修了。文学博士。
実家が浄土真宗の法泉寺であるため、僧侶としての活動も行なう。野生動物と人びとの関わりの過去・現在・未来に関心を持ち、日本国内や海外で調査・研究を進めている。
広島大学在学中にイノシシと出会い、フィールドワークを積み重ねる傍ら、シシ垣に関する調査・研究のためのネットワークづくりにも力を入れている。著書に『荒野に生きる―オーストラリアの野生化した家畜たち』(どうぶつ社)、『野生動物と野生化家畜』(大明堂)、『亥歳生まれは、大吉運の人―ウリ坊の愛しさは幸福の約束だった』(三五館)、編著に『イノシシと人間共に生きる』(古今書院)など多数。

2007年5月号掲載


農業被害が高じてイノシシが「過疎化」の原因に

高橋 イノシシ研究も長くなりましたね。今は、農林水産省のプロジェクトで研究をしています。本来なら環境省の系列で行なわれるのですが、被害対策という観点から農林水産省で、イノシシの生態調査と、それにのっとった被害対策を主に検討していますね。イノシシは農業被害が多く、年間50億円位の被害が出ています。

──50億円も? どういった被害があるのでしょうか。

高橋 広島大学の裏手は中国山地なので、大学時代によく探検部で行きました。サルやイノシシが生息しているのですが、被害に耐えかねて出て行く人達が多いと、その時に聞きました。働き盛りの若者が出て行ってしまい、お年寄りだけが残っていくので、村の力が弱くなる。被害対策をするためのマンパワーがないのですね。それで獣に負けて、村を出ていくことになるのです。

──イノシシが過疎化の一つの要因になっているのですね。

最近では神戸の住宅街にイノシシが出没して、農業被害以外の影響もあると聞きますが。

 

高橋 餌付けから始まる被害も起こっています。人間がイノシシに食物を与えることによりイノシシが人に慣れ、街を徘徊するようになった。その結果、餌を催促するために咬みついたり、追い回したりするのです。

──「共存の勘違い」とでもいうのでしょうか。

高橋 中山間に比べ、都市部では物をかすめとられたとか、庭を荒らされたとかぐらいで、生活に響く被害は少ない。もともとイノシシと接触がない場所なのです。ウリ坊に餌をやると、「ウィウィ」とかいいながら愛嬌ふりまいて、かわいいものなのですよ。それで、癒し的な部分もあって、「いいことしているな」と勘違いしてしまう人々が多い。イノシシに食べ物を与えることを規制する「イノシシ条例」などをつくって対策はとっているのですが、中々うまくいきませんね。

──神戸に行った時、親子連れのイノシシが住宅街を歩いているのを見てびっくりした記憶があります。

高橋 最近は横柄に歩いているのもいますね。イノシシは賢いので、学習します。親が子どもと一年掛けて一緒に歩き、子ども達は親がしたことをインプットして、同じことを繰り返す。そうやって新世代のイノシシができてしまうのです。

(写真上)和歌山県に現存する、石積みのシシ垣
(写真上)和歌山県に現存する、石積みのシシ垣
(写真左)麻酔で眠らせた巨大イノシシにGPSを取り付けている様子。農業被害対策用のデータ取得が目的
(写真右)香川県にある土盛りで造られたシシ垣
<写真提供:高橋春成氏>


近著紹介
『人と生き物の地理』(古今書院)
近況報告

高橋春成先生が、書籍『生きもの秘境のたび―地球上いたるところにロマンあり―』を上梓されました。コモド島やガラパゴス諸島、果てはアマゾンまで、高橋先生がフィールドワークで訪れた世界中の珍しい生き物たちを臨場感たっぷりに紹介されています。

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