こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

ピンポイントでがん細胞を攻撃。 効き目が高く、副作用もない。画期的ながん治療を開発

ナノサイズの乗り物で抗がん剤を運ぶ

東京大学大学院工学系研究科教授

片岡 一則 氏

かたおか かずのり

片岡 一則

1950年生まれ。1974年東京大学工学部合成化学科卒業、79年同大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士)。94年東京理科大学基礎工学部教授、96年フランス・パリ大学客員教授などを経て、98年より東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻教授、2004年同大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター教授(併任)。05年東京大学ナノバイオ・インテグレーション研究拠点リーダー。

2015年12月号掲載


片岡 簡単にいえば、一種の人工的なウイルスのようなものです。ウイルスとは、我々にとっては病気をもたらす恐ろしい存在ですが、見方を変えれば、すごい存在です。ウイルスはたんぱく質の分子が集まってできたものですが、エンジンなどの動力を持っていないのに、血液に乗って体中を動き回り、細胞に取り付き、遺伝子を残すことができます。高分子ミセルも、まさにウイルスと同様に体内を動き回ることができる性質を持っていますので、それに薬や遺伝子を乗せれば、体の中に送り込める仕組みができるのです。

──なるほど。でもそれが体に入ったときには、排除しようとする力が働きそうですが…。

片岡 おっしゃる通りです。我々の体は、ウイルスが体内に入ってくると普通なら異物と認識して、拒絶反応を示します。高分子ミセルも同様ですから、まず異物と認識されないように体をだます工夫が必要でした。以前、人工血管や人工臓器をつくった際に、材料の高分子が異物とみなされないよう、体の中で探知されない、いわばステルス機能を持ったポリマー(高分子重合体)をつくったんですが、それを使って周囲をカバーすることで、クリアすることができました。

がん細胞により穴だらけになった血管が高分子ミセルの通り道に

──高分子ミセルは、体内のがん細胞をピンポイントで攻撃できる、つまり抗がん剤を患部に直接届けることができるそうですが、具体的にはどういう仕組みなのでしょうか?

片岡 人間の血管は、酸素や栄養を運ぶため、小さな分子が通る程度の穴が開いています。でも、高分子ミセルは、分子としてはちょっと大きいサイズとなるため、普通の血管の穴は通れません。ところががん細胞は、増殖に必要な栄養や酸素をより多く取り込むために周囲に血管をおびき寄せます。こうして出来た血管は、いわば突貫工事で作ったようなものなので、穴だらけの構造になっています。その穴は高分子ミセルが通ることができる大きさなのです。

(イラスト上)普通の血管は、小さな分子が通る程度の穴しか開いていないため、高分子ミセルは通らない。がん細胞エリアの血管には、高分子ミセルが通ることができる大きさの穴があるため、そこを通ってがん患部をピンポイントで攻撃することができる。(イラスト下)がん細胞に入った高分子ミセル。がん細胞は高分子ミセルを消化しようとして消化液を出すため、周囲が酸性になる。高分子ミセルは、周囲が酸性になると中の薬を出す仕組みを持っている〈片岡氏提供の資料をもとに編集部作成〉

──つまり、高分子ミセルは、がん細胞にある血管の穴しか通れない。だから、結果として患部に直接行き着くというわけですね。


前へ     1 / 2 / 3 / 4     次へ

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ