こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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イグ・ノーベル賞を受賞したのも、数々の発明品を生み出 せたのも、私がしつこい性格だからだと思います(笑)。

年間100冊以上ものノートから生み出されるさまざまな発明品

金沢大学大学院特任教授

廣瀬 幸雄 氏

ひろせ ゆきお

廣瀬 幸雄

1940年石川県金沢市生れ。63年金沢大学理学部物理学科卒業。同大学院理学研究科修了後、86年金沢大学理学部教授となり、学生部長(副学長相当)、共同研究センター長、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長などを歴任。06年に金沢大学退官後は、名誉教授、大学院特任教授となり現在に至る。工学博士。専門は破壊工学。日本コーヒー文化学会副会長。03年には鳥撃退の合金を開発したことでイグ・ノーベル賞を受賞。09年には超音波計測による骨密度評価法の開発育成で文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞。著書に『基礎材料工学』(日新出版)、『中小企業の生き残り戦略』(同時代社)、『もっと知りたいコーヒー学』(旭屋出版)、『工学屋が見たコーヒーの世界』(いなほ書房)、『我が輩は珈琲博士』(時鐘舎)など多数。

2012年3月号掲載


ハトの糞が付いていない
日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の銅像に疑問
 

──先生は「ハトに嫌われた銅像の化学的考察」でイグ・ノーベル賞を受賞されたことで有名です。また、ご専門の破壊工学などでも大変な研究者であると伺っています。
その上、多くの実用的な発明をされていることに驚きました。分野も多岐にわたっていて、私などには整理ができない程です。
「必要は発明の母」ともいいますが、先生はもっと次元が違うような気がします。先生にとって発明の原動力とは何ですか?
廣瀬 そうですね…まず、「どうして?」と疑問に思うこと、それをしつこく探究し続けること、そしてそれが「何かの役に立たないかな」と考えることでしょうか。

2003年にイグ・ノーベル賞を受賞した廣瀬氏。同賞は人を笑わせ、考えさせるユニークな研究に与えられる。廣瀬氏は「石川の鳥達に感謝したい」とスピーチし会場を沸かせたとか<写真提供:廣瀬幸雄氏>
2003年にイグ・ノーベル賞を受賞した廣瀬氏。同賞は人を笑わせ、考えさせるユニークな研究に与えられる。廣瀬氏は「石川の鳥達に感謝したい」とスピーチし会場を沸かせたとか<写真提供:廣瀬幸雄氏>

──それは具体的にどういうことですか?
廣瀬 私は昔から、疑問に思うとそのことばかり考えてしまうんですよ。いつも同じことをいっているから、周囲の人達からよく「しつこい」と怒られます(笑)。イグ・ノーベル賞を受賞した研究も、学生の頃から気になりだして、原因を突き止めたのが40年後だったんです。
──40年も! それはすごい。ご研究に至るまでにはどのような経緯があったのですか?


 

廣瀬 大学生の時、石川県の兼六園にある日本武尊の銅像にハトの糞が一切付いていないことに「なぜだろう?何か理由があるのでは」と疑問を抱きました。上野にある西郷隆盛の銅像なんて糞だらけですよね。
その後、私が大学教授になってから、その銅像を改修する委員に選ばれまして…。金属疲労を専門にしていたこともあったのですが、まさに願ってもないことで、さっそく調べてみたところ、他の銅像と比べて「ヒ素」の含有量が多いことが分ったのです。おそらく、ハトはヒ素と鉛から発生する電磁波を嫌がっていたのでしょう。

廣瀬氏がイグ・ノーベル賞を受賞した研究の対象となった、兼六園の日本武尊の銅像。現在は改修されている<写真提供:石川県>
廣瀬氏がイグ・ノーベル賞を受賞した研究の対象となった、兼六園の日本武尊の銅像。現在は改修されている<写真提供:石川県>

──実用化すれば、鳥害で悩む人達にとって大変な発明品になりますね。
廣瀬 ただ、ヒ素と鉛を扱うのには危険が伴います。真空状態での精錬が必要で、昔はこの技術がないために何人もの人が亡くなったはず。すぐに実用化するのは難しいですね。
──なるほど…。とはいうものの、まさに疑問をしつこく追い続けた研究の成果といえますね。
廣瀬 しつこく疑問を持ち続けた例は他にもあるんですよ。
私は小学生の時に肥溜めに落ちた経験があるんです。その時に疑問に思ったのが、肥溜めがまったく臭くなかったことです。「なぜ?どうして?」と考え続け、後になってバクテリアが臭いの元を食べるせいだと分りました。それで臭いを消す液体なども発明しましたよ。
──それも、数十年掛かりで「どうしてだろう?」という疑問を持ち続けて謎を突き止めたわけですね。先生の「しつこさ」には感服します(笑)。
廣瀬 同じことばかり言っているから、若い時は『トロ松』なんて呼ばれてバカにされましたけどね(笑)。

「なぜ?」を考え続け、
記したノートは年間100冊以上!


──先程、発明の原動力の一つに「何かの役に立たないかな」と考えることをあげておられましたね。


 

廣瀬 何かに疑問を持って研究した結果、誰かの役に立つというのはとてもうれしいことです。
私が30年以上研究しているものの一つに、金沢の医王山(いおうぜん)にある「戸室石」という鉱石があります。この石は遠赤外線を発するのですが、それを利用してミネラル豊富なおいしい水が作れるスティックや、腰痛を緩和させるベルトなどを発明しました。商品化して販売もしたところ、反響が良かったので、多くの方に喜んでいただいていると自負しています。
──それは面白い! 私も欲しくなります。それにしても、そうしたアイデアはどこから湧いてくるんですか?

廣瀬 私は面白かったこと、新しく知ったこと、確認したことなどを常にノートに書くようにしています。1年間でだいたい大学ノート100冊位になりますね。一つのノートの中からは、最低5つはアイデアが出てくるので、1年間で500個のアイデアが生れているわけです。
誰かに会うと、この人は何を話すのかな、どんな新しいことをいうのかな、といつも興味を持っています。ただ、人の話はすぐに忘れてしまうので、何かを感じたらすぐにメモをとって、何回も読み返すことが大事ですね。
──まさに継続は力なり、といえるのでしょう。それにしても、先生のおっしゃる「しつこさ」や探究心だけでは、数々の発明にはつながらないと思うんですが…。
廣瀬 その通りです。私のこれまでの発明には、今まで勉強したことが物事の原理原則に関する基礎知識となり、大いに役立ってきました。
最近、珪藻土を使った断熱の新素材を研究していますが、それも珪藻土が持つ調湿性といった特性を知っていればこそ発明できたのだと思います。
──発明は単なるひらめきではなく、先生が「なぜ?」を考え続ける中で、先生の知識や理論、ご経験が加味されて生み出されるものなんですね。

珪藻土を使った断熱の新素材を開発中の廣瀬氏。ヒートアイランド現象の抑制など、さまざまな効果が期待できる<写真提供:廣瀬幸雄氏>
珪藻土を使った断熱の新素材を開発中の廣瀬氏。ヒートアイランド現象の抑制など、さまざまな効果が期待できる<写真提供:廣瀬幸雄氏>

コーヒーのおいしい焙煎法や
臭いを抑えるトイレも


──最近の発明品についても、もう少し伺いたいのですが。
廣瀬 実は私はコーヒーが大好きで。もう40年近く研究を続けており、もっとおいしいコーヒーが飲みたいと常々考えています。
そこで最近、過熱蒸気による焙煎機を作りました。今までコーヒーはローストし酸化させることで焙煎していたのですが、この焙煎機は還元で作るのです。そうすると、アルツハイマーを改善するトリゴネリンや、癌を予防するクロロゲン酸といった、コーヒーが元から持つ物質が減少するのを抑えることもできます。
過熱蒸気で、コーヒーを抽出した後のカスを燃料に変えることにも成功しました。
──コーヒーを無駄なく使うことができますね。


 

廣瀬 さらに、その過熱蒸気を利用して臭いを抑えるトイレも開発しました。東日本大震災で、被災地にある仮設トイレが臭って困っているという話を聞き、過熱蒸気でコーヒーを焙煎すると嫌な臭いが消えたことを思い出したのです。残念ながら、このトイレを被災地に持っていこうとした時には、すでにトイレが整備されていたので、活躍の場はなかったのですが…。
──しかし、工事現場など今後もさまざまな場面で活用できる可能性はあります。
そういえば、先程話に出てきた戸室石からも新たな発明品を作られたとか。
廣瀬 産婦人科の先生が私のところに相談に来まして。聞くと、尿漏れで悩んでいる人が多いので何か対策はないかと。そこで、戸室石から発生する遠赤外線効果を利用して、尿漏れ防止パンツを作りました。
人間は、体温に近い36度位の熱を最も吸収します。そこで、戸室石の粉をパンツの繊維に埋込むことで、遠赤外線が皮膚を通して筋肉の奥まで伝わる。そうすると膀胱の血行が良くなり活性化されることで、尿漏れが防げるというわけです。

 さまざまな発明品の中でも、石川県のものを使った発明が多くを占める。特に戸室石からは、水をおいしくする「ヒロセ・ビタル」、腰痛を緩和させる「ビタルベルト」を始め、いくつもの発明品が生み出された。
 さまざまな発明品の中でも、石川県のものを使った発明が多くを占める。特に戸室石からは、水をおいしくする「ヒロセ・ビタル」、腰痛を緩和させる「ビタルベルト」を始め、いくつもの発明品が生み出された

 ──いろいろな方々との出会いや、先生のご経験からさまざまな発明品が生れる。先生のお話を聞いていると、とても楽しい人生だなと感じます。楽しさが楽しさを生み、発明が発明を生んでいるのでしょう。
今後も新たな発明品を期待しています。本日はありがとうございました。



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