こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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『らせん』に対する強い思いが、 偶然と幸運を呼び寄せ、大発見へとつながったんです。

セレンディピティ的大発見! 極小らせんコイルCMCの可能性

岐阜大学工学部名誉教授

元島 栖二 氏

もとじま せいじ

元島 栖二

1941年長野県生れ。65年名古屋工業大学卒業後、67年同大学院修士課程工業化学専攻修了。その後、東亞合成化学工業(株)(現・東亞合成(株))勤務を経て、71年岐阜大学工学部に迎えられ、82年工業化学科助教授、90年応用化学科教授に就任。研究過程でセラミックの結晶を合成する「らせん構造」と出会い、89年にマイクロヘリカル状の窒化ケイ素ファイバーを開発、90年カーボンマイクロコイル(CMC)の合成に世界で初めて成功。2005年文部科学大臣表彰科学技術賞、06年日本化学会学術賞を受賞。CMC研究会会長、材料技術研究協会会長などを務める。著書に『驚異のヘリカル炭素』(シーエムシー技術開発)、『ミクロの世界へズームイン』(分担執筆、文研出版)など、原著論文は約230、特許は約55件。

2009年1月号掲載


「らせん構造」は万物の基本。 何らかの意味があるはずです



──先生は、特異な構造をした炭素繊維「カーボンマイクロコイル(CMC)」の合成に成功され、そのCMCは多様な可能性のある、新時代を切り拓く新素材として注目されているとお聞きしております。
まずはじめに、CMCとはどんなものなのか、教えていただけますか?

 

 

最初に発見したコイル状の素材
最初に発見したコイル状の素材


元島 CMCとは、99.9%炭素でできたらせん構造を持つ、直径1〜20マイクロメートル(1マイクロメートル(μm)は1ミリメートル(mm)の1000分の1)、長さ50〜500マイクロメートルの素材のことです。
実は、らせん状に巻いた炭素繊維は、1953年の科学誌「Nature」において、すでに報告されていました。しかし、当時はコイルを成長させ、再現性良く合成することが非常に難しかったようで、その後の研究が進展せず、次第に話題にのぼらなくなってしまったようです。



──そうだったのですか。その難しい合成に、先生は見事成功なさったわけですね。

 

 

CMCの先端部分。矢印の触媒部分が1秒間に約1回転しながらコイル状に成長している
CMCの先端部分。矢印の触媒部分が1秒間に約1回転しながらコイル状に成長している

 

 

──それにしても、数十年も前に発見されたものに、なぜ興味をお持ちになったのですか?

 



元島 私は以前から『らせん』の持つ美しさと不思議な魅力に惹かれておりまして・・・。というのも、われわれの生命を司るDNAはもちろん、宇宙や目に見えない電磁波、それに歴史や経済だって、多くはらせん構造を基本として成り立っています。ということは、らせんには大きな意味があって、何かの役に立つ存在であると、私は常々考えていたのです。

──確かにそうですね。しかし、それがなぜCMCの合成につながっていくのでしょう。


元島
 CMCの合成は、「偶然」と「幸運」が重なってできた賜物だと、私は思っています。

──といいますと?


元島
 私が初めてらせん状の物質を見つけたのは、本当に「偶然」の出来事だったんです。
1989年、卒業論文の作成に向けて研究を行なっていた学生の1人が、私に何気なく1枚の写真を見せたのですが・・・。それを見た時、私の目は釘付けになってしまったんです。スプリングのようにグルグルと渦を巻いた、今までに見たこともなければ想像もしなかったらせん状のものが、そこにあったのですから。


全身にビビっと電流が走ったような感覚で、思わず「何だこれは!」と叫んでしまった。周囲の学生達も驚いたようです(笑)。それから、そのサンプルを受け取るやいなや、興奮状態で電子顕微鏡を覗き、時間の経つのも忘れて夢中で写真を撮り続けました。

 

成長開始5分後のCMC 成長開始15分後のCMC
成長開始5分後のCMC 成長開始15分後のCMC

 

強い『思い』や『気』があったから 多くの仲間に巡り会えた



──不思議ですね。もし、先生がらせんに興味をお持ちでなかったら、大発見を見逃していたかもしれません。


元島 おっしゃる通りです。


もしかしたら、過去には多くの人が見ていたかもしれないし、あるいは写真に撮っていたかもしれない。しかし、それがどういう意味を持つものなのかをきちんと理解しておかないと、発見や発明にはつながらないんです。偶然目にした1枚の写真でしたが、らせんに対する強い思いがなかったら、運命の出会いにはなっていなかったでしょう。そういう意味で、この発見は、私にとって、まさしく『セレンディピティ(思いがけない発見)』的な大発見だったのです。

──なるほど。では、「幸運」というのは?

 


 


元島 良い仲間に巡り会えたことです。しかし、何もしないで訪れる幸運などないと思われませんか?

 何かをやろうとする時には、自分の意識を高めて、強い『気』を発信し続ける。そうでなければ、誰も応えてはくれないでしょう。そうした『気』が波動となって相手に伝わり、その波動を感じた人が寄り集まって、仲間の輪が広まっていったんです。

 

 



──同じ『気』を持つ者同士が共鳴し合ったというわけですね。


元島 はい。共鳴といえばもう1つ、素晴らしい出会いがありました。


その当時、私は地方大学の研究実績もない助教授でしたから、当然、研究費がなくて困っていたわけです。そこで、だめ元である財団の研究助成に応募してみたんです。そうしたら、申請書に貼り付けたコイルの写真に目を留めてくださった方がいましてね、「これは面白い」と。それがきっかけで、研究助成金1000万円を受け取ることができたのです。

──共同研究の努力が実り、らせんのパワーがアップしたのでしょうか。


元島 そうかもしれませんね(笑)。

 

 

未来を切り拓くCMC その用途と限りない可能性とは?



──ところで、CMCにはいろいろな用途があるとお聞きしております。なかでも、電磁波に対する効果が高いのだとか。


元島 はい。電磁波は、物質に当ると反射したり吸収されたりといった性質を持っているのですが、実は現在、電磁波シールド材として使用されているほとんどが、金属系の高電気伝導性材料でできています。これは、電波を反射して内部を保護するタイプのものですから、反射させるだけで、電磁波防御の根本的な対策にはなっていないのです。

──では、いったいどうやってCMCが電磁波を防ぐのですか?


元島 CMCは、らせん構造をしているため、非常に効率良く電磁波を吸収し、最終的には熱エネルギーとして放出するのです。その吸収率は99%以上で、外部からの電磁波を完全に防ぐとともに、内部から発生する電磁波も吸収しますので、電磁波障害からほぼ完全に保護できるというわけです。

──なるほど・・・。他には、どんな用途が考えられますか?

 

 

助成金で購入した電子顕微鏡も、今では3台目に。「撮影者の意識を高めると、相手は無機物なのにいい表情を見せてくれようとする」と元島教授は語る


 


元島
 はい。実は最近、面白いことを発見しまして・・・。


人間の皮膚は、熱い、冷たい、固い、柔らかい、それに、近付いてくる気配や熱、音など、さまざまな感覚を高感度に知覚できますよね。その触覚機能において最も重要な役割を果たしているのが「マイスナー小体」という神経端末なのですが、これが実にCMCと酷似しているんです。らせん構造であることも、大きさも、伸び縮みに伴って電気特性が変化することも。

──それは興味深い発見ですね。


元島 そこで、CMCを活用して、人間の皮膚感覚機能を持つ高感度触覚センサー、ひいては人工皮膚が作れるかもしれないと考えています。すでに実験では、CMCが、近付いてくる気配、電磁波、熱や音を感知できるというデータも得ているんですよ。

 

 

CMC マイスナー小体
CMC(左)とマイスナー小体(右)

<画像提供:元島栖二氏、出典:IPA「教育用画像素材集サイト」>
<画像提供:元島栖二氏、出典:IPA「教育用画像素材集サイト」>


──それはすごい! 人間の皮膚感覚を持つロボットの誕生も、夢ではなくなるかもしれませんね。


元島 そうですね。ほかにも、CMC入りの化粧品が皮膚の弾力性を保つコラーゲン生成の促進に効果があること、ガン細胞の増殖を著しく抑制する効果があること・・・などの実験結果を得ています。話し出すとキリがない程、CMC実用化の可能性は拡がっているのです。

──CMCがさまざまな分野で実用化されれば、現在問題となっている環境問題やエネルギー問題など、解決への道が大きく拓けるかもしれませんね。CMCの実用化に向け、ますますのご活躍を期待しています。

 

 


近著紹介
『驚異のヘリカル炭素』

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