こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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オーストラリアの先住民“アボリジニ”の独特の世界観を 彼らのアートから紐解く

今、世界が注目するアボリジニ・アート

神戸大学大学院国際文化学研究科教授

窪田 幸子 氏

くぼた さちこ

窪田 幸子

1959年東京都生まれ。88年甲南大学大学院博士後期課程単位取得退学、97年広島大学総合科学部助教授、2009年より現職に就任。オーストラリアの先住民、アボリジニの研究を専門とし、広く、国家、国際言説、先住民のあいだのダイナミズムにも研究を広げている。著書に、『アボリジニ社会のジェンダー人類学―先住民・女性・社会変化』(世界思想社)、『「先住民」とはだれか』(共編著/世界思想社)など。

2016年9月号掲載


窪田 例えば、私が調査しているオーストラリア大陸北部のヨルングという部族では、「サメの精霊」をドリーミングのシンボルにしています。サメの精霊は、東から西に旅を続け、どこを訪れた、誰それと喧嘩したなど、途中で起こった出来事を語るのですが、この道すがら、土地の景観を作り、動植物を生み出し、アボリジニ社会を統率する道徳や儀礼などを定めていくのです。サメは最後には殺されてしまうのですが、その肉が飛び散った場所など、話に因んだいくつかの場所も言い伝えがあって、実際にヨルングの聖地とされています。

ヨルングの成人儀礼の様子。顔や胸にドリーミングのシンボルを描く〈写真提供:窪田幸子氏〉

──なるほど。先ほど部族ごとにドリーミングがあると伺いましたが、部族が違っても理解できるものなのですか?

窪田 いえ。基本的にはその部族内だけで通じるものです。アボリジニの部族は「クラン」と呼ばれる親族集団で形成されており、ドリーミングは、同じ部族内であればいくつかのクランで共通性が見られます。先ほどのヨルングは約50クランがあり、合計約6000人の部族民がいます。その程度の規模の中ではドリーミングに共通性があります。

成人儀礼のために胸に文様を描く。クランごとのドリーミングストーリーを象徴する文様が描かれる。これが樹皮画のもともとのかたち。学生時代のフィールドワーク中は、あるアボリジニ女性と仲良くなったことでその家族の「娘」となり、親族付き合いを深めながら調査したという〈写真提供:窪田幸子氏〉

──オーストラリア全体では、ヨルングのような部族はどのくらいいるのですか?

窪田 現在は混血して、母語を失った人々もいますが、部族数としては600といっていいでしょう。ただ、ヨルングのように、その言語、文化、慣習、儀礼などを行っている地域集団(部族)の数は、100程度でしょうか。

アートが民族自立のきっかけに。オリンピックのシンボルにも

──ドリーミングは、具体的にどのように絵で表現されているのでしょうか?


近著紹介
近況報告

窪田 幸子先生は、2021年4月より芦屋大学学長に就任されました。

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