こだわりアカデミー
「働かないアリ」がいるからこそ、 アリの社会は長く存続できるのです。
社会の維持に不可欠な「働かないアリ」の存在
北海道大学大学院農学研究員准教授
長谷川 英祐 氏
はせがわ えいすけ
1961年東京都生まれ。大学卒業後民間企業勤務の後、東京都立大学(現・首都大学東京)大学院で生態学を学ぶ。現在、北海道大学大学院農学研究院生物生態・体系学分野准教授。観察、理論解析とDNA解析を駆使して、主に真社会性生物の進化生物学研究を行っている。実験から得た「働かないアリだけで集団をつくると、やがて働くものが現れる」などの研究で話題を呼んだ。著書は、『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)など。
2013年3月号掲載
長谷川 そう思うのが普通ですが、実際に働かないアリだけを集めて観察してみると働くアリが現れ、逆に働くアリだけにすると働かないアリが現れることも分かったんですよ。
アリの一種、シワクシケアリのコロニーを飼育して、個体識別した上で各個体の働き度合いを調べ、よく働く個体だけのコロニーを再構成しました。そして、それぞれのコロニーでもう一度働き度合いを観察したところ、働き度合いの分布は元のグループと同じようになったのです。
──不思議ですね。一体どうしてそのようなことが起こるのでしょう?
長谷川 「反応閾値(いきち)」が原因です。「反応閾値」とは、仕事に対する腰の軽さの個体差、といったところでしょうか。
──聞き慣れない言葉ですが・・・。
長谷川 人間に例えて説明しましょう。人間にはきれい好きな人とそうでもない人がいて、部屋がどのくらい散らかると掃除を始めるかは、個人によって異なります。きれい好きな人は汚れに対する「反応閾値」が低く、散らかっていても平気な人は高いというわけです。
これがアリの社会では、必要な仕事が現れると、「反応閾値」の最も低い一部のアリがまずは取り掛かり、別の仕事が現れたらその次に閾値の低いアリが・・・と、低い順に作業を行う。つまり、個体間の「反応閾値」の差異によって、必要に応じた労働力がうまく分配されているのです。
日本ではありふれたアリの一つに挙げられる「トビイロシワアリ」。大きいアリが女王アリで、小さいアリが働きアリ〈写真提供:長谷川英祐氏〉 |
──驚きました! こうした自然のメカニズムがあるから、仕事の指示を与えてくれる存在がなくても、コロニーが効率良く仕事をこなしていけるんですね。
でも、「反応閾値」が皆同じで、仕事があるときは全個体で一斉に取り掛かるコロニーがあるとしたら、その方が処理できる仕事量は増えると思うのですが・・・。
『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書) |
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