こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

イルカを使って実験をしていると われわれに無理に合わせてくれているんじゃないかと 思う時があります。

イルカの思考を解明する

東京大学農学部特別研究員

村山 司 氏

むらやま つかさ

村山 司

1960年山形県生れ。91年東京大学大学院修了。農学博士。現在、東京大学農学研究員。専攻は感覚生理学、認知科学。水産庁に勤めた後、現職に。在学中からイルカの考える能力についての研究を続け、今年研究成果を国際シンポジウムで報告。イルカの思考法の一端を解明する研究として反響を呼んだ。実験や研究活動は主に水族館で行っているが、研究費はすべて私費とのこと。共書に『ここまでわかったイルカとクジラ』(96年、講談社ブルーバックス)、『イルカとクジラの心理学』(97年、青土社)などがある。

1997年10月号掲載


イルカという名前は単なる俗称

──今回のテーマがイルカということで思い出したことがあるんです。私がまだ中学生の頃でしたが、修学旅行で佐渡島へ渡る時に数頭のイルカが、船と並走するようについてきたんです。それも結構長い間ついてきたんですよ。

村山 それは大変貴重ですね。最近はどんな船にもついてくるというわけではないそうですから。

──何だかとても不思議な体験でしたね。

今日はせっかくの機会ですから、イルカについていろいろとお聞きしたいと思っています。

まず始めに、イルカなのかクジラなのか、口の先がとがっていればイルカだと分かるんですが、外見ではその境目がよく分からないのもいますよね。そこでイルカとクジラの定義というか、そこから教えていただけますか。

村山 別の生き物だと思っている方が多いのですが、クジラもイルカも学問的に言うとクジラ目という同じ分類で、それがハクジラとヒゲクジラとに分かれています。歯のあるほうがハクジラで、その中でも体長が3−4mよりも小さいものをイルカと呼んでいるだけなんですよ。

──分類学上、イルカ目というのはなくて俗称ということですか。小型ハクジラと言ってもいいわけですね。

村山 そうなりますね。強いて違うところを挙げると、クジラは、家族関係があまり密ではないですし、社会性というか、群れで行動することはあまりない。それに対してイルカは常に群れで行動しています。

──それから、イルカは視覚に限らず聴覚を使ってものを見たりするそうですね。

村山 「エコーロケーション」のことですね。彼らは、近くにあるものは当然、目で見ることができますが、水中はあまり光が届かないので、遠くまで見ることができない。それじゃどうやって見るのかというと、音で「見る」わけです。

音は水中の世界では空気中よりも速く、しかも遠くまで達します。その特性を利用したのがエコーロケーションなんです。これは高い周波数をもったパルス音を発して、物体に反射した音からその物体の特徴を知る能力のことです。形はもちろん、大きさや材質まで識別することが可能です。例えば100m離れたところから直径7.5cmの金属球を識別できます。

──それはすごいですね。真っ暗な所でも大丈夫なわけだ。

村山 ただそうやって探知できる範囲、角度は非常に狭いんです。ほとんど直線上のものしか分からない。ですから、本来は四六時中、レーダーのように出していないといけないんです。

──確かコウモリもそうですね。あまり広範囲だと返ってくる音が多すぎて分からなくなってしまう。

村山 まさにその通りです。水中と地上の違いがあって単純に比較できませんが、イルカの場合はコウモリよりも優れていると思われますね。


近況報告

2006年より東海大学海洋学部教授に就任

1 / 2 / 3 / 4     次へ

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ